墨田区東向島の下町界隈に社屋を構えるフェルト加工販売業者の梶フエルト工業(梶朋史代表取締役)は、創業が1921年の老舗企業だ。モットーは、「他社でできないといわれた注文を引き受ける」。フェルト製品や関連製品の加工・製造販売を行っている。多品種小生産・短納期・特殊加工を強みとしている。

 創業当初は、フェルトの生産から加工まで手がける羊毛フェルトメーカーだったが、現在は加工のみを引き受けている。「生産ラインには莫大な投資が必要だが、フェルトは市場が小さい」(梶代表取締役)からだ。

 2008年のリーマン・ショックに端を発する経済不況で、市場は大きく縮小して受注減に苦しんだ。2009年初旬には工場の稼働を抑えるほどだった。ユーザーからは「少量で高品質の加工品を短納期で納品してほしい」という要求が強くなり、対応が求められていた。梶代表取締役は「今、手を打たないと生き残れない」と危機感を募らせた。

 そんななか、ITコーディネータ(ITC)の廣木秀之氏の協力のもと、競争力強化と他社との差異化に向けたIT改革に着手。大手ユーザー数社からの受注を獲得し、引き合いの件数を向上させることができた。梶代表取締役は「中小企業経営力大賞の広告効果はとても大きい。銀行の審査も楽になる」と想像以上の効果を語る。

 実は、IT経営の確立に向けた取り組みについては、梶代表取締役が10年以上前からほぼ一人で推進してきた経緯がある。

 フェルト業界は電子メールの利用やEDI化がまだまだ進んでおらず、ファクスによる受発注が中心。当時は、ファクス用紙を管理して伝票に起票していたために作業効率が低く、記入洩れや転記ミスなどが生じていた。

 伝票だけでなく、生産指図も同様に紙で管理されており、製品在庫や仕掛り在庫、受注残、発注残などのリアルタイムな把握が困難だった。過剰在庫や受注の機会損失などが発生していたという。ユーザーからの納期問い合わせに対して、いちいち工場に進捗を確認する必要があったため、すぐに回答することが難しかった。

 当初は、パッケージの基幹システムやFAXサーバーを導入することで解決を試みた。(つづく)(信澤健太)

IT活用により過剰在庫や機会損失を防ぐ