石川県のITビジネスは、全体でみれば規模はそれほど大きくない。だが、人口あたりでみれば、売上高、事業所数、従業者数ともに、全国上位に位置している。ただ、売上高に占める受託ソフト開発の比率が高く、下請け構造からの脱却が課題だ。そこで、県や地場の組織が一丸となって、地場ITベンダーのビジネスモデルの転換を支援し、着々と成功への道を進んでいる。(取材・文/真鍋 武)
ITベンチャーが育ちやすい環境
石川県には、全国に名だたるIT企業がある。例えば、アイ・オー・データ機器やPFU、EIZO、三谷産業などは、売上高が数百億円クラスの名門IT企業として全国的に知られている。
しかし、それらの企業だけが、石川県のIT産業を支えているわけではない。県内のIT企業の中核組織である石川県情報システム工業会(ISA)には、およそ120社の企業が加盟しているが、「会員の約70%は中小企業で、そのおよそ半数が、従業員数20人未満の小企業」(ISAの小清水良次副会長)で、売上高は大きくないにしても、ITベンチャー企業が下支えしているのだ。
また、2005年の経済産業省の特定サービス産業実態調査によると、石川県の情報サービス業の年間売上高は、764億7100万円で、日本全体の14兆5560億400万円の0.5%に過ぎないが、人口あたりでみると、売上高、事業所数、従業者数ともに全国上位に位置しており、事業所数が全国で第3位、従業者数が全国で第4位、年間売上高が全国で第5位であった(表2)。つまり、全国に占める割合は高くはないが、ITビジネスに積極的な地域であり、中小ITベンダーがその中核を担っているわけだ。
こうした中小IT企業が多い背景には、IT技術者の育成に最適な環境を整えていることがある。石川県には、金沢工業大学や、石川工業高等専門学校(石川高専)のほか、日本初の国立の独立大学院である北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)などがある。石川高専は、全国高等専門学校第21回プログラミングコンテストの競技部門で最優秀賞を受賞するなど、教育の質が高く、JAISTでは、産学官と連携して最先端の科学技術の研究を行う「いしかわサイエンスパーク(ISP)」を周辺地域に設け、IT人材を育成するための基盤を整えている。さらに、IT企業に対して技術者のスキル向上を支援している石川県IT総合人材育成センターもある。
石川県としても、機械・繊維・食品、そしてITを県内の基幹産業と位置づけており、IT産業に対する個別の予算を設けている。こうした背景があって、質の高いIT技術者を輩出できるのだ。

約4万5000人が参加した「e-messe kanazawa 2013」独自商材の開発・提供を支援
人口あたりの売上高、事業所数、従業者数が、全国比で上位につけている一方で、県内のITビジネスの売上高の構成比をみると、受託ソフトウェア開発の割合が最も高く、人口あたりの売上高が全国5位であった05年でも、56.6%が受託ソフトウェア開発となっている。契約先の産業分野別でみると、同業者が29.2%で、全国平均の13.3%の約2倍。県内のITビジネスは、IT企業からの典型的な下請け構造で成り立っているのだ。
しかし、こうした受託ソフト開発ビジネスが厳しい状況は、石川県も同じ。そこで、県は受託ソフト開発に依存したビジネスモデルからの脱却を提案して、自社プロダクトの開発・提供に力を注ぐよう、県内IT企業に対して呼びかけている。
こうした県の方針もあって、ISAではスマートフォンアプリ開発研究会を立ち上げ、10年~12年までの3年間で84人の開発者を育成した。そして実際に、育成した企業が自社製品を展開するようになってきている。また、ISAでは、北陸地方最大のIT関連の見本市である「e-messe kanazawa」を毎年開催して、県内外に対して石川県のIT産業の魅力をアピールしている。
このほか、近年、ISAでは「観光クラウド」の確立に注力している。県内に散在している観光情報を地元のクラウド基盤で一元管理して、クラウド上でのアプリケーション開発などを行い、経費の削減や、地域の活性化につなげようというものだ。ISAの石丸健事務局長は、「2015年には、石川県に北陸新幹線が開通する予定なので、今後は観光客の増加が期待できる。これを県内のITビジネスの活性化につなげたい」と意欲をみせている。
また、県の商工労働部が立てた施策の実行組織である石川県産業創出支援機構(ISICO)も、地元ITベンダーに対して自社商材の提供に関する支援を行っている。その戦略が、“ニッチ市場”と呼ばれる特定分野向けの商材で市場を攻めるというものだ。次週以降、その戦略について解説する。