地方のIT産業が停滞気味といわれて久しい。その主な理由は、受託ソフト開発を中心とする産業構造が崩壊しつつあるからだ。クラウドサービスの拡大や、中国をはじめとするオフショア開発が盛んになるにつれて、国内のソフト開発の案件は減少してきた。受託ソフト開発を事業の中心に据える地方ITベンダーは、「もはやこれだけでは食べてはいけない」と口を揃える。しかし、地方ITビジネスは、受託ソフト開発だけではない。先進的な取り組みによって、成功を収めた企業を多数輩出している地域もある。新しくスタートするこのシリーズでは、躍動する地方の元気な姿に焦点をあてていく。(取材・文/真鍋 武)
受託ソフト開発はジリ貧
『週刊BCN』では、「コンピュータ流通の光と影」という1985年に始まる不定期連載企画で、コンピュータが普及する過程と、IT産業の成長の歩みを47都道府県の現地取材を通じて伝えてきた。昨年10月から今年3月にかけては、「沈む地方に新たな鼓動」と題して、北海道・宮城・新潟・名古屋・大阪・広島・福岡の7道府県を取材。地方ITビジネスの厳しい現状と、果敢に挑戦するIT企業の姿を紹介してきた。シリーズを通してみると、どの地方にも共通しているのは、SI・ソフト開発事業の下請け構造が揺らいでいることだった。
特定サービス産業実態調査(平成22年度版)によれば、約17兆円ある日本のIT産業のうち、ソフト開発は10兆1641億9100万円を占めているが、このうち受託ソフト開発の市場は8兆6289億8700万円。ソフト開発の契約先(顧客)を産業別でみると、製造業がトップの22.0%で、2位は「同業者(ITベンダー)」(20.6%)となっている。同業者に「情報・通信業」を含めたIT産業全体でみると、トップの28.9%となる。日本のIT産業は、ITベンダーからの下請け案件が大部分を占めているのだ。とくに地方では、ユーザー企業の数が少ないことから、同業者間取引額が占める比率はもっと高まる。しかし、こうした下請け体質は、崩壊しつつある。企業・団体のIT環境が一定の水準まで達し、開発案件数は減少。クラウドの登場に伴って、一から開発するシステムも減り、案件の単価も下がった。さらに、元請けのITベンダーは、中国などのオフショア開発を多用し、地方のITビジネス基盤は崩れつつある。受託ソフト開発を主力事業とする企業は、「状況はジリ貧。受託ソフト開発だけでは生き残れない」と口を揃える。
成果を上げている地域を抽出
その一方で、自社パッケージを展開して成功した地方ITベンダーも存在する。そうした企業は、「受託ソフト開発や派遣型の事業を中心としていては先細りするだけ。早急に事業構造を転換しなければと考えた」と厳しい状況を乗り越えるための決断の様子を語る。
地方のITビジネスが厳しいことはずっといわれ続けてきた。だからといって嘆くだけでは何も生まれない。そうではなく、「光」を放つ成功事例や先進的な取り組みに焦点をあてて、参考にしてもらいたいというのが、新しく開始する「地方ITビジネスの羅針盤~各地の動きに成長の萌芽をみる」シリーズを企画した趣旨である。
実際、先進的な取り組みや成功事例を輩出している地域がある。ニッチ産業向け自社パッケージ、産学官の連携施策、自治体クラウド、海外展開の支援、人材教育の支援、企業誘致、スマートシティなどがその例だ。とくに、近年では、クラウドサービスの拡大によって、地方のITベンダーでも全国に製品を展開できるようになっている。また、これまでITがあまり浸透してこなかった農業・漁業などの第一次産業や、これから市場の拡大が見込まれる介護の分野は、東京よりも地方に人口が集中しており、地方IT産業の活性化につながる可能性が高い。
こうした事情を考慮すれば、地方ITビジネスはまだまだ可能性があるといえる。その可能性を秘めた地域を厳選し、1地域につき、それぞれ4回に分けて伝えていく。
第一弾として、次週は石川県の「ニッチトップ戦略」を紹介する。石川県の複数のITベンダーは、受託ソフト開発からの脱却を目指して自社開発のソリューションを展開し、売り上げの向上につなげている。その多くが、ニッチ市場とよばれる特定業種向け製品だ。連載を通して、ニッチ市場で成功するための秘訣に迫る。

次週は石川県のITベンダーの活躍ぶりを紹介する