「GIFU・スマートフォンプロジェクト」をきっかけとして、入居企業数が順調に増えているソフトピアジャパン。インキュベート施設が整備されている「ドリーム・コア」には、スマートフォンアプリケーションソフトの開発を手がけるベンチャー企業が密集している。今回は、実際に入居している企業の活躍ぶりと、彼らがソフトピアジャパンに入居した経緯や感じているメリットを紹介する。(取材・文/真鍋 武)
企業同士の交流が刺激になる

GOCCO
森誠之
取締役 GOCCOは、岐阜県が運営している情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の卒業生が運営しているスマートフォンアプリ開発企業だ。2009年11月に創業し、現在では8人が在籍している。同社の売り上げは、「毎年1.5倍程度のペースで順調に伸びている」(森誠之取締役)。売り上げの構成比では、スマートフォンアプリの受託開発が約8割を占めるが、独自ソリューションとして、「PITシステム」を提供している。これは、「導電インク」という特殊な素材を活用してできた紙媒体をタッチパネルにかざすと、記録した任意のコンテンツを読み出すことができるシステムだ。およそ3年前に開発し、これまでは鳴かず飛ばずだったが、今年7月に大塚製薬が「ポカリスエット」のPRのためにこのシステムを採用し、紙媒体をタブレット端末にかざすだけで、音楽が流れるシステムを構築したことがきっかけとなって、問い合わせが急増している。森取締役は、「問い合わせの数が以前と比べて100件ほど増えている。それも大企業からの直接の問い合わせが多い。すでに5件の新たな受注が決まっていて、2013年末までには15件の案件を獲得したい」と好調をアピールする。

大塚製薬が採用した「PITシステム」。レコードの形をした紙媒体をかざすと音楽が流れる仕組みだ そんな「PITシステム」だが、「実は、自分たちだけではなくて、IAMASの学生などのアイデアも取り込んでできたもの」(森取締役)となっている。ソフトピアジャパンでは、「モバイルカフェ」を開催するなど、IAMASや「ドリーム・コア」の入居企業との交流が活発で、新しい発想を得たり、刺激を受けたりしやすい環境にある。このことが効果を現した。森取締役は、「学生時代にGOCCOを立ち上げて、拠点は、賃料の優遇もあって『ドリーム・コア』を選択した。現在では、入居して数年がたっているので、賃料の面ではあまりメリットはないが、それでもIAMASの学生や入居企業、県の担当者などと交流できるメリットは大きいので、拠点を移すつもりはない」と説明する。
スマートフォンアプリ開発を手がけるベンチャー企業は、近年増え続けており、新しい技術や発想が日々生み出されている。その一方で、一度注目を浴びて、すぐに流行が終わってしまうものも少なくない。森取締役は、「スマートフォンアプリ開発の世界では、どんどん新しいものをつくりださなくてはならない。新しいものは、提供を開始した瞬間に中古品となる」と指摘する。だから、GOCCOでは、「PITシステム」が注目を浴びている現在、すでに新たな製品の開発に着手している。「PITシステム」が落ち目になったときには、すぐに新たな製品を提供して、継続して収益源を確保できるように準備としているのだ。
アプリ開発に集中できる環境
約300本のスマートフォンアプリを提供している千葉県のEagleの子会社、タイムカプセルは、13年5月に「ドリーム・コア」を拠点として設立された。位置情報を活用したスマートフォンアプリ開発に取り組んでおり、9月には、第一弾として「横浜F・マリノス コレクションカード」の提供を開始する。横浜F・マリノスのサポーターが、試合を観に行ったり、横浜F・マリノスのショップなどを訪れたときに、位置情報を付随してコメントや写真を投稿すると、ポイントがたまって、選手や試合をテーマにしたデジタルカードを手に入れることができるというサービスだ。試合がある日に会場を訪れてコメントや写真を投稿したサポーターに限定して、特別なカードを提供するなどの特典も用意している。ビジネスモデルとしては、横浜F・マリノスのスポンサー企業と契約して、アプリ内に広告を配信してもらうほか、従量課金制でレアカードを販売するという仕組みを構築している。相澤謙一郎代表社員は、「初年度に2000万円の収益を上げる見込みが立っている。今後は、他のサッカーチームや、野球チームにも提案していく」と意欲をみせる。

レアカードは「横浜F・マリノスコレクションカード」の醍醐味
タイムカプセル
相澤謙一郎
代表社員 タイムカプセルが拠点として「ドリーム・コア」を選択した理由について、相澤代表社員は、「私はEagleの取締役を兼務しているが、ソフトピアジャパンでスマートフォンアプリ開発の講座の講師を務めたときに、ここならアプリ開発に集中できると思ったことがきっかけ」と説明する。ソフトピアジャパンには、アプリ開発講座や交流会があるだけでなく、地理的に都会から離れていて、通勤時に満員電車に悩まされることがないといったメリットがある。タイムカプセルでは、社宅をソフトピアジャパンから徒歩3分の距離に整備し、アプリ開発に集中できる体制を敷いている。
また、相澤代表社員は、「ソフトピアジャパンと連携して、地元の高校生を対象とする講座を実施するなど、人材育成に貢献できることに魅力を感じている」と語る。