インターネットイニシアティブ(IIJ)は、2013年11月、パブリッククラウドの需要拡大に応えるために、島根県松江市のコンテナ型データセンター(DC)を増強する。既存設備の隣接地に、現在と同規模のコンテナ・モジュールを装備するという。先行するAmazon Web Services(AWS)などとの競争激化に備え、次世代を見据えたDCの開発にも挑む。
コンテナ型DCなら価格で勝負できる
コンテナ型DCの走りは、2005年に稼働を始めたグーグルが最初といわれている。その後、マイクロソフトやヤフー、フェイスブックなど、主要な米クラウド事業者が相次いでコンテナ型や外気冷却方式のDCを導入した。国内でも、さくらインターネットなどのDC事業者のほか、奈良先端科学技術大学院大学が設置している。
そうしたなかで、IIJは2010年から松江市でコンテナ型DCの実証実験を開始し、2011年4月に本格的な運用に乗り出した。同社のDCのなかで、コンテナ型DCは松江市の1か所だけ。他の19か所は賃貸ビル内に設置したもので、IIJはビル型とコンテナ型を使い分けている。
ビル型は主にスペース貸しのハウジングに加えて、プライベートクラウド(GIOコンポーネントサービス)向けと位置づける。さまざまなサービスを組み合わせて、自社にとっての最適なクラウド環境を構築する。そこには、システム構築もからむ。
一方、コンテナ型DCはパブリッククラウド(GIOホスティングパッケージサービス)向けになる。ユーザーは用意されたサービスメニューから選択し、クラウドサービスを利用する。
サービスオペレーション本部データセンターサービス部の久保力部長は、「クラウド用基盤は、コストを安くすることが勝負の前提になる」と話す。ユーザーがシステムをクラウドに乗せ換える際、「より安価になる」ことを期待するのは当然だろう。原価を低減しなれば、競合のクラウド事業者とは戦えない。
IIJがコンテナ型DCを選択したのは、そこに大きな理由がある。自前のDC用ビルを建設するよりも、「P/L(損益計算書)ベースの原価を約40%下げられる」(久保部長)。結果、AWSなどと戦える料金を設定できたという。
さらに機能を強化してPUE1.0の次世代DCへ
松江市にDCを設置したのには理由がある。投資の助成などIT産業への振興施策があったことや、自然災害の少ない地域なので、首都圏や関西圏のバックアップになること。また、コンテナ型DCを稼働させるための手続きを軽減できたことも大きい。建築確認申請が不要になったのだ。
コンテナ型DCは、コンテナ会社が製造したコンテナをIT機器ベンダーの工場に送り、そこでサーバーなどを設置する。それをコンテナ車で松江に配送する。もし建築物という扱いになれば、申請手続きが複雑になり、コンテナ内に設置したサーバーなどのIT機器の入れ替え作業にも支障をきたす可能性があった。
松江市は、2010年6月、コンテナ型DCを「建築物ではないDC」と認めた。2011年3月には、国土交通省が「コンテナ型DCにかかわる建築基準法の取扱いについて」で、内部に人が立ち入らないものは建築物ではない、と通達した。
松江のコンテナ型DCは、現在、24台のモジュール(1台あたり約300サーバーを収納)で構成されている。外気冷却方式を採用することにより、省エネも実現している。IIJによると、建築物では困難な外気導入ダストときょう体を一体化した構造になっており、消費電力を従来型空調方式に比べて約40%の削減を実現した。電力利用効率もPUE(Power Usage Effectiveness)1.2を達成している。なお、PUEは電力使用の効率性を示す指標で、1.0に近いほど電力使用の効率がよいことを意味する。
その設備が2年2か月で埋まった。「顧客の獲得は計画通り進んでいる」(久保部長)とし、今年11月に新たな24モジュール構成のコンテナ型DCを増設する予定だ。「今のペースなら、2年で満杯になる」(同)。IIJはユーザーの数を公表していないが、クラウド事業の売り上げは13年第1四半期に約23億円で、うちパブリッククラウドのGIOホスティングは約5億円と4分の1弱を占めている。パブリッククラウドのユーザーを獲得する一方、ノウハウを生かして企業や大学にコンテナ型DCそのものを売り込む。
コンテナ型DCの機能強化も図る。まずはPUE1.1を目指す。具体的には、配電ロスの削減、高密度実装、温湿度条件の緩和などで実現する計画だ。例えば、高密度実装では、サーバーやラックの空いたスペースにバッテリを搭載し、UPS内部で行うD/A変換(デジタルとアナログの二重変換)を削減する。通年外気の利用や室外機削減、空調消費電力削減などで湿温度条件も緩和する。その先には、煙突効果を用いたPUE1.0の次世代DCを視野に入れている。
【今号のキーフレーズ】
価格競争力が必須となるパブリッククラウド市場。「建築物ではないDC」に勝機