島根県のソフト系IT企業は、Rubyの振興を図りながら、各社それぞれのビジネスを盛り上げている。ニアショア開発では、「しまねソフト産業ビジネス研究会」を中心に、県内のソフト系IT企業が県外から獲得した案件を共有して、大規模開発にもすみやかに対応できる体制を敷いている。また、新たにRubyを開発言語としてパッケージソフトを提供するベンダーも増えてきた。(取材・文/真鍋 武)
ニアショア案件の獲得は営業力が命

プロビズモ
鎌田大輔社長 近年、首都圏の大手ITベンダーが外注するシステム開発の案件を地方のIT企業が請け負う「ニアショア開発」が注目を集めている。島根県では、ソフト系IT企業が「しまねソフト産業ビジネス研究会」を2008年に結成し、Ruby技術者が豊富という強みを生かして、県外からの受託ソフト開発の案件獲得に成功している。そのなかでも、とくに中心的な役割を果たしているのが、出雲市のプロビズモだ。同社は、島根県がRuby振興を図る前からニアショア開発を手がけて、経験・ノウハウを蓄積してきた。獲得した案件の一部を研究会の会員企業と共同で開発するなどして、県内ソフト系IT産業を活性化している。他企業と共有することで、100人月などの大規模な開発案件でも対応できるというメリットがある。

プロビズモ
浅田信博副社長 鎌田大輔社長は、「ニアショア開発では、営業力がとくに重要。実際のところ、技術力は、全国のどの地域もあまり変わらない。それ以外の地域特性などをうまくアピールすることが案件を獲得する秘訣だ。当社では、およそ10年をかけてそのノウハウを蓄積してきた」と説明する。プロビズモでは、社長が東京に常駐して営業をかけ、本社は副社長が取り仕切る体制をとっている。各拠点に役員がいることで、顧客の要件や人員の余剰状況などに関する正確な情報を共有して、迅速に判断できるようにしている。また、出雲本社には、顧客専用のラボを設けて、システムの開発から運用までトータルでサポートできる体制を敷いている。これによって、エンドユーザーとの関係を深めて、下請けではない直接契約を増やしてきた。このところ、「Rubyが島根県の特徴として注目されて、顧客から声がかかりやすくなっている」(鎌田社長)という。
プロビズモの2012年度(13年3月期)の売上高は約11億5000万円だが、このうちの約4割は県内からの収益となっており、「実は、県内の民間企業からの売上比率が年々高まっている」(鎌田社長)という。産学官が連携してRubyを振興してきたことで、県内のユーザー企業のなかでもRubyの認知度が高まっていることが影響している。また、「県の担当者が、一緒に営業に同行することも多い。この支援が顧客への説得力を増している」(浅田信博副社長)。地産地消のモデルができつつあるのだ。
Rubyをミドルウェア領域で拡大

日本ハイソフト
杉原悟代表取締役 Rubyで開発したパッケージソフトを展開するソフト系IT企業も増えている。出雲市の日本ハイソフトは、2012年には中央労働災害防止協会のコンサルティングを受けて、Rubyを開発言語とする製造・建設業向けの労働災害リスクを低減するためのソフト「リスクアセスメント」の提供を開始した。同社は、これまで販売・会計などの独自パッケージソフト「ADVANCE」シリーズを提供しており、Rubyの受託ソフト開発は2008年に開始したが、近年はRuby技術者が育ち、県との共同の実証実験などを通してノウハウを蓄積してきたことから、今回のRuby製パッケージソフトの販売に踏み切ることができた。杉原悟代表取締役は、「県が音頭をとってRubyを振興してきたことが今回の製品開発に大きく影響している。もしRubyがなかったら、島根県のIT企業はこれほど活性化はしていない」と語る。

ネットワーク
応用通信研究所
井上浩代表取締役 Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏が在籍している松江市のネットワーク応用通信研究所(NaCl)の井上浩代表取締役は、「従来のように、単純にRubyでウェブアプリケーションを開発するのではなく、ミドルウェアの領域を含めたより高度な技術が必要となる領域にRubyを活用していきたい」と考えている。そこで、NaClは、Rubyアソシエーション認定のクラウドサービス事業者となっているIIJと協力して、Ruby on Railsアプリケーションの開発支援環境と実行環境を提供するPaaS「MOGOK」を開発。現在は、ベータ版での提供となるが、今後は「MOGOK」の正規版を拡販して、PaaS上でのRubyアプリケーション開発を全国に広めたいとしている。
井上代表取締役は、「開発言語のなかでRubyのシェアはまだ低い。今後は、基幹系システムなど、大規模なRubyの開発案件を増やしていきたい。また、近年、クラウドサービスや自動化ツールの普及によって、システム開発のプロジェクトの規模が小さくなっているので、オフショア開発に出すだけのオーバーヘッドが出せなくなるIT企業が増えている。ニアショア開発に対するニーズをさらに掘り起こしていきたい」と意欲をみせている。