ジャパンドリームを予感させるすごい会社がある。インターネット広告、スマートフォン向け広告、メディア開発、運営事業を展開するアドウェイズ(本社・東京都新宿区)である。創業は2001年、社員1100人、平均年齢29歳、売上高は2013年3月末時点で226億円。中学を卒業した岡村陽久社長が、金はない、人材もない、経験もないのないない尽くしで起こした会社である。
アドウェイズがこれだけの成長企業に脱皮した契機は、2010年のスマートフォンの登場にある。当時、岡村社長をはじめ同社の経営陣は、時代の趨勢を少し見誤っていたという。「これだけ普及して便利な携帯電話が一気にスマートフォンには変わらないだろう」あるいは、「多くの人は携帯電話とスマートフォンの両方をもつことになるかもしれない」「だからもう少し様子をみよう」──こんな判断だった。この判断は同社の経営陣だけでなく、多くのIT企業に共通するものだった。しかしこの時、二人の若手の社員が岡村社長に、「スマートフォンは、必ず携帯電話に取って代わります。スマートフォン向けの広告事業に会社の主力を移すべきです」と直訴した。携帯電話とスマートフォンでは技術がまったく異なる。同社の多くの携帯電話の技術者をスマートフォン向けの技術者にシフトしなければならない。一からのやり直しは大きな抵抗も生む。
しかし、同社はこの直訴を受け、スマートフォン向けの広告事業に転換する。このことにより、日本では最初のスマートフォン対応の広告企業になった。その後、フェイスブック、グリーなどと提携して、インターネット広告、スマートフォン向けの広告事業で国内No.1企業になった。
また、11か国、19拠点の海外展開でも同社は独自の味を出している。日本のIT企業や通信会社は、海外には出るけれども、日本向けの技術を開発するか、あるいは現地の日系企業向けのサービスを主体としている。日本のIT産業は意外に内向きなのである。ところが、アドウェイズは現地の企業と取引することを原則にしていて、中国でも、韓国でも、台湾でも現地の大手ネットワークと提携して、現地の企業向けにスマートフォンの広告事業、モバイル広告事業を展開している。インターネット商社というビジネスモデルは、まさに海図なき航路をすいすい進んでいる感がある。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。