この原稿のテーマを考えている間に気になるニュースが二つ流れた。まず、IBMによるx86サーバー事業のレノボへの売却である。PCサーバー市場において半年前にヒューレット・パッカード29.7%、デル21.4%に対して、8.5%と低迷していたPCサーバー事業の呪縛から逃れ、昨年のソフトレイヤー買収に象徴されるクラウドサービス事業に軸足を移すということのようだ。そこへ米マイクロソフトの新CEOにサトヤ・ナデラ氏が指名されたというニュースが飛び込んできた。インドの大学を出て米国で学び、サン・マイクロシステムズを経て米マイクロソフトに入り、クラウド戦略担当として同社をけん引してきたという彼の経歴が、マイクロソフトのこれから向かうであろう方向を示しているように思える。多くの国内IT企業が範としてきたIBMやマイクロソフトにおけるこれらの決断が、わが国のIT市場をけん引してきた大手IT企業群にどのような決断を迫り、そしてその周辺を固めてきた中小IT企業群がどのような方向へ舵を切るのか、その影響は決して小さくはないだろう。
さて、その国内IT市場において、このところ企業ユーザーのクラウドデータセンター利用が堅調に伸び始めているようである。だが、これでクラウドの需要が高まってきたと単純に考えてよいのだろうか? そこに新たなクラウド利用モデルは展開されているのだろうか? この点に疑問を感じている業界人は少なくない。データセンター事業者はこぞってオンデマンド型IaaS事業を推し進めてはいるが、そこに独自性の高いビジネスモデルを見出すことは稀有である。実際のところは、海外クラウドサービスモデルの後追いをしているに過ぎないと感じるのは私の偏見だろうか。一方で、システムインテグレータは、データセンター事業者との提携を強め、IaaS上への企業内情報システムの移行や各種サーバーの構築にビジネス機会を見出している。だが、そこで使われる技術はこれまでと変わらぬWindowsやLinux関連の技術に過ぎない。まるで新しい革袋に古い酒を注ぐかのごとく、ビジネスの本質は何も変わっていない。クラウド基盤技術で先を行く海外のものに追いつくことはもはや容易でない。だが、クラウドビジネスの本質がビジネス・プロセス・アウトソーシングにあると理解するなら、ビジネスソリューションが豊富に揃った国内IT市場には世界をリードするクラウド市場を築く機会がまだ残されていると信じたい。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。