柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
窓がない倉庫
「サイロ(silo)」は、農場などにある円筒形の倉庫を指す。主に酪農地帯や穀倉地帯で使われることから、国内で見ることができるのは北海道ぐらいで、多くの人にはあまり身近な存在ではないだろう。いきなり「サイロ」という言葉を聞いても、「サイコロ」を思い浮かべてしまうのは、無理もない。
ただ、IT業界では農業とは別の意味で使うことがけっこう多い。ITの世界でいう「サイロ」は、「ほかとの連携がなく、孤立したシステム」の状態を指す。酪農地帯や穀倉地帯で使われるサイロは、刈り取った作物を乳酸菌の作用で発酵させるために用いられるという。発酵させるためには外気を遮断する必要があることから、サイロには窓がない。その様子が「ほかとの連携がなく孤立してしまったシステム」の状態であることから、「サイロ」が使われるようになった。このサイロ化に悩まされるユーザー企業はけっこう多い。
サイロ化はITの歴史そのもの
ITシステムの歴史を紐解くと、そもそもサイロからのスタートだった。ハードウェアが高価だったので、必要最低限の業務でITシステムを導入する。その後にサーバー価格が下がって、Windowsの普及で操作が簡単になり、各部門で個別に導入するようになった。各部門にシステムが行き届くと、ようやくシステム連携が注目されるようになる。
では、なぜシステム連携が必要なのか。
企業には、企画、開発、調達、生産、販売、管理など、さまざまな役割を果たす部門が存在する。これらの部門は決まったプロセスに従って、部門間で連携しながら業務を進める。ITシステムを使って業務効率を高めたいのであれば、連携するすべての部門が利用できるITシステムが必要とされるからだ。ITシステムのサイロ化が企業に及ぼす弊害は、決して小さくない。例えば、企業として同じ「顧客」や「製品」を扱っているはずのデータベースなのに、部門ごとに構成や使い方が違うため、連携できないなどの問題が起きてしまう。
ITシステムがサイロ化されたままでは、経営情報を迅速に把握できないので、経営層の意思決定を遅らせることにもなりかねない。ビジネスに貢献するITシステムを構築するにあたって、サイロ化からの脱却が重要なキーワードとなっているのは、そのためだ。
全社的な視点でサイロ化を回避
最新のITトレンドは、サイロ化の誘惑に溢れている。例えば、「クラウド」だ。ITリソースを調達しやすいことに着目しすぎて、全社的な視点が欠けると、個別最適のシステムができ上がってしまう。すると、「歴史は繰り返す」で、ほかのシステムとの連携をつくり込むためのコストや運用管理の手間などが発生してしまう。クラウドの導入で得られるメリットは、帳消しになるというわけだ。
意図せずにサイロ化が進む場合もある。事業の統廃合や企業合併がその典型例だ。役割が同じ部門でも、使っているITシステムが同じということは少ない。とくにデータの構造の違いを吸収するのは容易ではない。どちらのシステムが使いやすいかなどと選別していると、自然とサイロ化が進んでしまう。
サイロ化を避けるには、さまざまな変化を前提にして、シンプルで連携が容易なシステム環境を整えることが求められる。そして、全社的な視点で企業のビジネスをサポートできるITシステムを構築することが大切だ。
IT業界では、「企業ITのサイロ化」を避けるための、さまざまな方法論や技術が活用されている。例えば「SOA(Service Oriented Architecture)=サービス指向アーキテクチャともいう」や「BPM(Business Process Management)=ビジネスプロセス管理ともいう」がそれだ。どちらも全社的な視点から、業務とITシステムそれぞれのあり方を最適化することを目指して発展してきた概念で、ユーザー企業の関心が高い。今回は詳細な説明を省くが、SOAもBPMも企業のITと関わっていくには重要な考え方だ。「システム連携」という言葉と紐づけて覚えておこう。
Point
●IT業界でいう「サイロ」とは、「ほかとの連携がなく、孤立してしまったシステム」のこと。サイロ化したシステムはさまざまな弊害を生む。
●サイロ化を防ぐ方法論や技術は数多くある。それらを使いこなすには、全社的な視点でITシステムのあり方を考えることが大切。