この連載は、IT業界で働き始めた新人さんたちのために、仕事で頻繁に耳にするけれど意味がわかりにくいIT業界の専門用語を「がってん!」してもらうシリーズです。
柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
クラウドとオンプレは対義語
新入社員の皆さんが現場に出て仕事し始めると、「クラウド」という言葉を使わない日はまずないだろう。なぜなら、クラウドを求めるお客様が急速に増加していて、ITを売る企業(ITベンダー)にとってはクラウドを語らなければビジネスにならないからだ。
クラウドが登場する前、企業がITを使う方法は、必要なハードウェア/ソフトウェア/ネットワーク機器/サービス(総称して「ITリソース」と呼ぶ)を購入し、システムインテグレータ(SIer=エスアイアー)と呼ばれる会社にシステムを構築してもらい、オフィス内にITシステムを保管する施設をつくって運用するしか方法がなかった。それがクラウドの登場で変わった。クラウドは、お客様が使うITシステムをお客様自身で所有しない。ITリソースはITベンダーがもっていて、お客様はインターネットや専用の通信回線を通じて利用する。
クラウドの対義語として、先ほど説明したお客様自身がITシステムを所有・運用する形態があり「オンプレミス(On-Premises)」略して「オンプレ」と呼ばれる。お客様がITリソースを所有して利用するのがオンプレミス、所有せずに利用するのがクラウドということを覚えておきたい。
では、オンプレミスからクラウドへの移行が、急速に進んでいるのはなぜだろうか。その理由は「低コスト」と「高い柔軟性」にある。
お客様が自社でITシステムを所有するためには、ハードやソフトの購入費用(初期投資)と安定稼働させるための維持費用がかかる。購入したITシステムは数年使い続けることになるので、将来はそのITシステムをどのくらいの規模で使うか、拡張計画をつくらなければならない。予想が外れてムダに大規模なシステムを購入してしまうリスクもある。一方、クラウドはお客様が使いたいITリソースを必要な量(利用人数や容量など)だけ、必要な期間だけ使うことが可能だ。そうなると、初期投資は少なくて済み、維持費用もITリソースを保有していないので抑えられる。過剰投資のリスクも防ぐことができる。
クラウドは三つに区分できる
クラウドはITリソースの種類によって主に三つに分類される。それが「SaaS」「PaaS」「IaaS」だ。ポイントだけ押さえておこう。
「SaaS」はアプリケーションソフトウェアの機能を提供するもので、「PaaS」はアプリケーションの開発・実行環境を提供するもの。「IaaS」はCPUやメモリ、ネットワーク、ハードディスク(ストレージ)などハードウェア関連のITリソースを提供するものだ。
クラウドは広義で概念的な言葉なので、話す人によって内容が異なることもある。お客様や販社との会話のなかでクラウドという言葉が出てきたら、この三つのどれに当てはまるかを突きとめておくと、理解しやすい。
SIerの既存事業を奪う可能性も
クラウドは、SIerというシステム構築会社の既存ビジネスを脅かす存在であることも知っておきたい。複数のメーカーからITリソースを調達して、組み合わせてシステムをつくって納品。その後のメンテナンスサービスを提供するSIerが得意とするビジネスモデルは、ユーザーに受け入れられなくなる場合があるからだ。インターネットや専用線を使ってユーザーが直接ITリソースを購入・利用することになれば、当然ながらオンプレのシステム構築事業の規模は縮小する。
今、SIerには、オンプレのビジネスだけでなく、クラウドをどのようにビジネスにするかが求められている。SIerの力を見定めるとき、その企業はクラウドをビジネスにしているかどうかをチェックしておこう。
Point
●「クラウド」は、お客様がITリソースを所有しなくてもインターネットを通じて利用できる環境を提供するもの。オンプレミスよりもコストと柔軟性の観点で優位性がある。
●クラウドは、オンプレミスシステムの構築事業を脅かす存在にもなる。SIerは将来を見越してクラウド関連のスキルやノウハウを蓄積しておく必要がある。