データセンター(DC)サービスを提供する企業間の競争が激しさを増している。勝負を決めるのは、現場がいかに迅速に動いてお客様のニーズに応えるか、だ。粟田和宏さんは、ヤフーグループのIDCフロンティアで、今年4月に新設したビジネス推進部を率いている。名刺には「セールス」とは書かず、押しつけないスタイルで営業をかけ、大規模案件の受注を狙う。「メールはめんどくさい。直接話したほうが、ビジネスの決断は早く下すことができる」と語る粟田さんの活動を追った。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
粟田 和宏(あわた かずひろ)
1998年、明治大学を卒業後、国際デジタル通信(現IDCフロンティア)に入社。クラウドの前身であるインターネットゲートウェイサービスなどの営業に携わる。2005年からは、広報・企画などの業務に従事。13年に営業に戻り、14年4月、ビジネス推進部の設立と同時に部長に就任。
一日4件の訪問をこなす“アクティブ上司”
●効率よく仕事をして、夜は家族と 「○○君、今回の商談でわかったのだけれど、君はまだまだお客様の信用を十分に得ていないと思う。ちょっとアプローチを変えて、サービスの内容を訴求するよりも、まずはしっかり信頼関係を構築することに力を入れたらどうだろう」。
営業訪問が終わった後、部下にこうフィードバックした。8人の部下は若手が多いこともあって、私はなるべく同行し、商談の改善点をチェックして、部下に今後の行動をアドバイスするようにしている。一日3~4件の訪問をこなすことも少なくない。承認などの事務処理は、iPhoneを活用し、訪問の合間に外出先から行う。そうすることで、営業訪問と社内業務をバランスよく迅速にこなして、遅くても午後8時には家に帰り、家族──妻と双子の娘──と過ごす時間を大切にしている。
私の部署は、ゲーム事業者にクラウドのプラットフォームを提供したり、大手企業に大量のデータの分析基盤を提供したりしている。案件の規模は大きく、受注に至るまでの期間は長い。だからこそ、部下にはお客様との信頼関係を築くことの大切さを口を酸っぱくして訴えている。
先日、ある部下から、「お客様の役員の方に、『君の仕事ぶりを高く評価している。君を昇格させるための支援はできるだけする』と言っていただいた」という報告を受けた。上司として非常にうれしく思うと同時に、お客様との信頼関係を説き続けてきた成果が現れてきた手応えを感じた。
お客様の信頼を得るために欠かせないのは、提案での「誘導力」だと考えている。クラウドは、いろいろな製品や機能の組み合わせができるので、お客様が「AとBがほしい」とおっしゃっても、「実は御社にはAとCのほうが適しています」と最適解を提案し、「成功への道」を明確に示すことがポイントになる。
●パワーランチで社内人脈づくり 2週間に一回、社内のマネージャー陣でパワーランチを開いている。会社近くの中華料理店などで、食べながら気軽に情報を交換し、組織横断で社内人脈を強化する。
私は新卒採用で入社して営業畑を歩んできたが、2005年から約8年の間、広報や企画、導入事例の収集・管理などの仕事に携わった。そのとき、例えばITシステムやサービスの価格の比較など、ユーザーはベンダーにどんな資料を提供してほしいと考えているのかを身をもって知った。
社内人脈と、このユーザー視点を生かしてチームを統括し、利益を高めて、部下の給料が上がるよう頑張るぞ。
私の営業方針を表す漢字は……「執」
クラウドやDCのサービスは一つひとつの案件が大きく、さらには営業のほかに開発や運用など、あらゆる部署が関わる。だから、チームを束ねるマネージャーは、案件を最後までやり切る強い執着心をもっていなければならない。1~2年がかりという長期間のプロジェクトでも、目的を見失うことなく、お客様やメンバーに方向を示し続けることは、マネージャーの腕の見せどころだ。私は、8人の部下やプロジェクトに関わる人たちを執着心をもってリードし、事業を拡大したい。