もともとはエンジニアとして開発現場でマイクロソフト製品を扱い、それらに対する不満を「よし、自分の手で改善しよう」と考えたのが、日本マイクロソフトへの転職のきっかけになった。田中啓之さんは、インターネットイニシアティブ(IIJ)を経て、2007年に入社。現在は、パートナーと組んで「Microsoft Azure」や「Office 365」といったクラウドを販売する部隊を率いる。エンジニアを営業の最前線に送り出し、パートナーを支えるビジネスモデルを構築しているところだ。ロードバイクが趣味の田中さん。仕事でもスピード感を大切にしながら、目的の達成に向かう。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/高橋里彩)
田中 啓之(たなか ひろし)
大学卒業後、独立系システムインテグレータ(SIer)に、エンジニアとして入社。2005年、インターネットイニシアティブ(IIJ)に移り、ネットワークソリューションの営業に携わる。07年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。サーバー用OS「Windows Server」などのマーケティング、クラウド事業開発を経て現職。7人の部下をもつ。
技術担当も「ど営業」クラウド提案を「響」かせる
米国本社がグローバルでの事業方針を明確に決定し、それをしっかり末端まで伝えるのが、マイクロソフトの経営のすぐれているところ。現在、掲げているのは、クラウド事業の本格的な拡大だ。これは、営業だけでとても実現できることではない。エンジニアがフロントに立ち、販売パートナーを支援することが、クラウド事業の成長のカギになる。エンジニアは、自分たちの技術に強いこだわりをもっている。しかし、開発者の理念は、必ずしもお客様のニーズに合致するわけではない。エンジニア出身の私は、「こだわりは捨てろ。お客様が求めているのは何かを追求しなさい」と、エンジニアに説いている。
クラウドを基盤として活用し、データ分析を経営に生かす提案は、お客様のCEOやCIOなどのボードメンバーが提案先になる。そこにエンジニア同士の対話はない。製品販売に慣れているパートナーにとっては、ぐっと提案のハードルが上がるわけだ。かつて金融機関向けのコンサルティングに携わっていた私の経験を、こうしたパートナーの支援に生かしたい。営業の部下たちには、エンジニアと連携しながら、クラウドの利用シーンをとにかくわかりやすく、経営の視点から語るよう指示している。これが実を結んで、パートナーとの共同受注案件が活発になって、クラウドの活用事例は着実に増えている。
火曜日の午前中、営業スタッフを集め、「シンク(考える)」をキーワードに、クラウド提案の進捗報告や、今後の作戦についてお互いに知恵を絞る時間を設けている。最近は技術担当者もこの会議に参加させているが、「ど営業」の空気になじめないからか、あまり発言がなかった。それが、先日、営業担当が夏休みで不在だったことも多少は影響したのかもしれないが、積極的に意見を出して、提案をコーディネートしようとする姿をみせてくれた。非常にうれしかった。まだまだ道程は長いだろうが、こうして、営業と技術が一体になって提案に取り組むスタイルが定着し始めたと実感している。
趣味はロードバイク。ツーリングで、長い時間をかけて目的地に到着したときの達成感が好きだ。そして、最近、クラウド事業の成長には社内外での人脈をつくることが重要と思い、ゴルフデビューをした。実は、この7月に発表したIIJとのクラウド連携は、私が仕かけたもの。前職のIIJではネットワークの営業を担当していたので、そのときに築いた人脈を生かして提携に至った。社内人脈も大切だ。日本マイクロソフトは、コンシューマ事業を含め、あらゆる分野でビジネスを展開している。抵抗感なく、各事業部のキーマンとパイプをつくり、いつかクラウド事業に生かしたい。
私の営業方針を表す漢字は……「響」
昔から「人々の生活をよくしたい」と思い続け、それを情報システムで実現するために、大学卒業後にIT業界に入った。営業マネージャーとして心がけているのは、私個人やチームとしての活動が社会にどれだけのインパクトを与えるかを意識して行動すること。とくに、パートナーと組んでクラウドを提案するときは、いかにお客様に「響く」活用シーンを描くかがとても大切だ。私は周囲を巻き込むタイプ。会社全体が一丸となって力を発揮し、クラウド分野で当社の影響力を高めたい。