需要は見込めるものの、外資系メーカーにとって市場開拓のハードルが高いのが、中堅・中小企業(SMB)だ。セキュリティ製品を手がけるシマンテックでパートナー向け営業のマネージャーを務める秦浩太郎さんは、SMBに強い販売会社に入り込んで、提案を活発に行っている。新卒で入社した若手と、中途採用のベテランが半々の部下に指示しているのは、販社やエンドユーザーをよく知ること。4週間で100社を訪問するプロジェクトを断行し、現場で拾ったニーズを営業活動のネタにしている。SMB開拓の秘訣は何か。秦さんに語ってもらった。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
秦 浩太郎(はた こうたろう)
1990年、立命館大学を卒業後、日本IBMに入社。メインフレームやオフコンの営業に携わる。96~99年、モトローラで医療機関向けソリューションの営業を担当。その後、ITメーカー数社を経て、2009年にシマンテックに入社した。中堅・中小企業(SMB)に強い販売パートナー向け営業部隊を率いる。部下は6人。
努力して良好な関係を築き SMB向け販社に入り込む
2009年4月にシマンテックに入社し、最初の1年はほぼ一人で販売パートナー向けの営業体制を築き上げた。当社はもともとディストリビュータ経由でSMBにアプローチしてきたが、市場開拓のカギを握る2次販売店への接点がなく、ビジネスが計画通りに伸びなかったという経緯がある。現在担当しているのは、大塚商会やリコー・ジャパンなど、まさにSMBに強い主要IT販社の11社だ。販社に対しては、SMB市場を「50人以下」や「250~500人」という具合に従業員規模別にセグメント化して、セキュリティやバックアップなど、需要が旺盛な製品に絞って提案している。
6人の部下は、経験豊かなベテランと入社3~5年目の若手の混合部隊。月曜日の午前中、全員参加のミーティングを開いて、その週の行動について情報を共有する。それが終わったら、マンツーマンで30分のフォアキャスト(案件の予測)を行う。若手はまだ不慣れな部分があって、完全に一人で行動の計画を立てるのは難しい。私はこの場を生かして、若手の部下に「今日、こんなことをしなさい」と細かく指示し、行動の結果を日次で報告させている。
自分が心がけ、部下に対しても大切だと言っているのは、商談の相手を好きになる努力をすること。「お金を出すのは企業だが、それを決めるのは人」。昔の上司が教えてくれた言葉だ。私はそれを胸に刻んで、提案活動に励んでいる。「具体的にはどうすればいいのか」と部下に聞かれたときは、「心のなかで、良好な人間関係を築くぞと決めれば、お客様を好きになることができる」と答えている。何かあったら、すぐに電話を入れる。メールはできる限り6時間以内に返す。こうした細かなことの徹底と積み重ねが、好印象を与え、受注にもつながると確信している。
相手を「好きになる」ために、もう一つ重要なのは、その相手をよく「知る」ということだ。今年、4週間で100社を訪問する「プロジェクト100」を実施した。あえて困難な目標を掲げ、部下たちが互いに励まし合いながら、たくさんの情報を入手しようとした。実際に走らせてみて、私もいろいろと勉強になった。例えば、製品の使い方について。新製品では、目玉ではなかったある機能をなくしたのだが、お客様から「その機能をよく使っていた。ぜひまた備えてほしい」という声が上がってきた。こうした現場に行かないと絶対に手に入らない情報を、今は営業活動のネタにしている。
「プロジェクト100」のおかげで、これまで当社製品をあまり積極的に提案していなかった販社に深く入り込み、関係を強化することができた。今後も現場主義に徹して、販社とのパートナーシップを深めていきたい。
私の営業方針を表す漢字は……「知」
自社製品の価値を明確に伝えるためには、お客様の業務内容や市場の動向、競合他社の動きなどについて「知る」ことが大切だ。私は、4週間で100社の販売パートナーやユーザー企業を訪問して、情報を吸収する「プロジェクト100」を掲げて、部下たちを動かした。4週間で100社を回るのはなかなか大変。終わった後、「疲れた。二度とやりたくない」と言う部下もいたが、「いろいろな情報を得ることができて、ためになった」という声もあって、現場主義の大切さを理解してもらったと実感している。