本人同意なしのデータ流通を目指す

濱谷健太
参事官補佐 「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」が示した制度改正で最も重要なポイントは、本人の同意がなくてもパーソナルデータを利活用できるようにするためのルールを定めようとしているところにある。
昨年6月、日立製作所(日立)が、JR東日本からSuicaの利用データを提供してもらい、これを分析したレポートをマーケティング情報として販売するサービスを開始すると発表した。ところが、Suicaユーザーを中心に猛烈な反発が起き、サービスは実質的な休止に追い込まれた。現行の個人情報保護法は、本人の同意がない個人情報の目的外利用を認めていない。しかし、JR東日本は、日立に提供したデータには匿名化処理が施され、特定の個人を識別できる状態ではないので、法で保護すべき個人情報にはあたらないとした。ただし、JR東日本がこの問題を受けて設置した第三者委員会では、特定の個人を識別できる情報とは何かという問題について、専門家の間でも解釈に幅があるので、法改正の動向を注視したうえで今後の動向を考えるべきという旨の結論を出している。
個人の特定を防ぐデータ加工が前提
大綱がフォーカスしているのはまさにこうした課題で、JR東日本や日立がやろうとしたことを、一般消費者の不安を排したうえで実現できるような制度を目指している。
具体的には、パーソナルデータを「個人の特定性を低減したデータ」に加工し、さらに加工後のデータから特定の個人を識別しようとする行為そのものを禁止することで、本人同意を不要にする。技術、制度の両面で個人を特定しないことを規定することで、一般消費者の安心と情報の自由な流通を両立させようというコンセプトだ。
さらに、技術の進化や社会情勢の変化にスピーディに対応するために、データの加工方法や法に定められていない事柄については、業界ごとの特性などを考慮して、民間団体が自主規制ルールを策定することになる方向だ。また、自主規制ルールを適切な内容にするために、一般消費者も策定に参画する仕組みや、第三者機関の認定制度なども検討する。ここでも、ITベンダーが果たす役割は大きい。とくに、業界知識が豊富なベンダーは、ルールづくりに深く関与できる可能性がある。
現在、改正法案の詳細は内閣官房IT総合戦略室が中心となって、関係省庁が詰めているところだという。同室の濱谷健太・参事官補佐は、「パーソナルデータの利活用は経済効果も大きい。省庁の縦割りを排してIT政策を実行しようという気運が出てきたからこそ、法改正に向けた具体的な道筋もできた」と、ここまでの取り組みに手応えを感じている様子だ。(本多和幸)