東芝は、さまざまな携帯のウェアラブル端末のなかでも、眼鏡型のウェアラブル端末の開発に力を入れている。同社の爰島快行・研究開発センターマルチメディアラボラトリー主任研究員は、「眼鏡型ウェアラブル端末は、映像をつくり出す部分の技術的ハードルが他のウェアラブル端末より高い」と説明する。視界を遮らずに映像を映し出す技術が求められるので、ここに技術的な新規性があるとみている。
現在、試作中の「東芝グラス」では、眼鏡のレンズに映像を投影する方式を採用。イメージとしては、超小型で軽量のプロジェクターを眼鏡のヒンジ近くに取りつけ、反射光学素子でコーティングしたレンズに映像を映し出す仕組みだ。眼鏡型ウェアラブル端末を本格的な実用段階へもっていくには、この透過型ディスプレイの技術的な克服が不可欠。爰島主任研究員は「東芝は液晶テレビの『REGZA(レグザ)』など映像分野には積極的に取り組んできた。眼鏡型ウェアラブル端末も次世代ディスプレイ開発の一環」と位置づけている。
腕時計型やバンド型などは、小型液晶ディスプレイに表示したり、スマートフォンなどへ情報を転送して表示する。だが、眼鏡型ウェアラブル端末だけは透過型を採用しており、表示部が他のウェアラブル端末と大きく異なる。透過型の方式も、東芝のようにレンズの内側からプロジェクター方式で映し出す方式や、「Google Glass」のように特殊なプリズムを使って表示させる方法などに分かれる。
透過型ディスプレイの最大のメリットは、視線を大きくそらさずに情報を得られることや、カメラを経由して第三者と視線を共有できる点にある。具体的な用途としては、設備保守や倉庫でのピッキング作業、警備、医療などで、いずれも「現場作業」で役立つことが期待されている。第三者と視線や情報を共有しつつ、ハンズフリーで使うことを想定しているものだが、一方で解決すべき課題も多い。
課題の一つは、電池のもち。少なくとも8時間は動き続けなければならず、しかも軽量さが求められる。二つ目はハンズフリーを実現するために音声で操作できるコマンド体系の実現だ。スマートフォンのように指での操作は難しいので、音声コマンドは必須であり、人間の言葉で快適に操作できるUI(ユーザーインターフェース)の開発が必要。三つ目は直射日光下でもはっきり表示できる視認性の向上が挙げられる。技術的なハードルが高ければ高いほど他社にとっての参入障壁も高い。東芝はこの点に着目して、眼鏡型ウェアラブル端末の開発に強い意欲をみせている。(安藤章司)

試作中の「東芝グラス」。左側レンズの後ろに見えるのが映像を射出する投影ユニット
さまざまなデザインが想定される「東芝グラス」(試作品)