
名古屋大学
高田広章
教授 ウェアラブル端末に熱い視線を送っているのが組み込みソフト業界だ。腕時計型や腕輪型、眼鏡型などさまざまな形状があるウェアラブル端末だが、共通していえるのはハードウェアと一体になっている点である。小型で電池容量も小さく、ハードウェアの仕様もバラツキが大きいので、組み込み専用のOSや制御ソフトが欠かせない。ここに組み込みソフト開発の需要があると期待されている。
米グーグルがウェアラブル端末専用OSの「Android Wear」を開発しているが、現時点ですべてのウェアラブル端末がAndroid Wearを採用しているわけではない。マイコンや独自OSを活用する場合は、組み込みソフトベンダーの活躍の余地は大きい。かつての組み込みソフト開発の大口需要先であった従来型携帯電話が、Androidを採用したスマートフォンへ移行する過程で、組み込みソフト開発の業界は「Android搭載のスマートフォンでは、組み込みソフトの需要が少なかった」(あるベンダーの幹部)という苦い経験をしている。しかし、ウェアラブル端末に関しては「OSのシェア争いがまだ続いており、発展のゆくえ次第では組み込みソフトベンダーにとってビジネスチャンスがある」(同)とみる。
チャンスを虎視眈々と狙う団体のなかに、組み込み用OSのITRON(アイトロン)をベースにしてオープンソースソフト(OSS)OSの構築を目指している「TOPPERSプロジェクト」がある。ITRONは国産OSのTRONの組み込み向けリアルタイムOSであり、TOPPERSプロジェクトの会長で、名古屋大学の高田広章教授は「IoT(モノのインターネット)などと並んで、ウェアラブル分野もITRON適用の有望分野」と、適用分野が広がりつつあると指摘する。とりわけ、ディスプレイがないウェアラブル端末やIoTでは「Androidの強みであるUI(ユーザーインターフェース)が生かせない」(組み込みソフト開発ベンダー幹部)ため、省電力やリアルタイム処理に強いITRONに商機があるとみる。
ITRONは、これまで国内を中心に自動車や人工衛星、工作機械、プリンタ、オーディオ機器などの制御用システムとして採用されてきた実績がある。今後の課題は、Linuxのように広く使われるOSとなり得るかどうかだ。ウェアラブル端末の領域においても、国内外のハードウェアベンダーに採用してもらうことが強く求められる。2003年にNPOとして組織化したTOPPERSプロジェクトだが、ここ10年余りの活動から「海外への情報発信はまだ弱い」(高田教授)ことを認識している。これからは有力プレーヤーや開発コミュニティに向けてITRONの強みや、競合OSと比較したメリットを存分に打ち出す情報発信力をより一段と強めていく必要がある。ウェアラブルは海外ベンダーの優勢が続いていることもあり、さらに国際的に存在感あるOSになるためには、国内はもちろん、海外での“仲間づくり”も欠かせない。(安藤章司)