エコシステムの構築に注力
セイコーエプソンは、すでにスマートグラス「MOVERIO」のエコシステム拡大に取り組んでいる。MOVERIOはOSにAndroidを採用し、カメラ、ジャイロセンサ、加速度計、地磁気計、GPS、マイク入力機能、Bluetooth接続機能など、豊富な機能を搭載している。これらを活用した独自のコンテンツ開発・配信のプラットフォームとして、開発者向けサイト「MOVERIO Developer Site」、アプリのマーケットプレイス「MOVERIO Apps Market」を運営している。
現在、60を超えるアプリがラインアップされているが、そのほとんどはコンシューマ向け。しかし、エプソングループの販売会社であるエプソン販売の佐伯直幸社長は、「自らのノウハウやアイデアを生かし、スマートグラスをB2B向けソリューションに組み入れたいと考えているITベンダーにも広く活用してほしい」との意向を示している。MOVERIO Developer SiteやMOVERIO Apps Marketは、そのための場として育てていく考えだ。

MOVERIOの開発者向けサイト MOVERIOをB2B分野で活用しようという取り組みは、すでに実証実験のかたちで始めている。2013年には、トーヨーカネツソリューションズ、国際航業、キングジムと共同で、ARナビゲーションを利用した物流ソリューションの実証実験を行った。倉庫や物流センターなどで、作業者がピッキングや仕分け作業をする際にMOVERIOを装着し、実視野とピッキング経路のナビゲーション画面を同時に見ながら、効率的かつ安全に作業できるようにするというものだ。また、昨年には、電通国際情報サービスなどと共同で新国立劇場のオペラ公演の字幕表示システム、情報通信研究機構(NICT)と共同で無人航空機の撮影データを活用した防災対応システムの実証実験も行った。
東京大学の学内ベンチャーであるアスカラボとの協業は、本格的なビジネスに発展している。アスカラボは、史跡をCGで再現し、現実の映像と合成する技術を開発・提供しているが、奈良県明日香村で、MOVERIOを使って、石舞台古墳の築造過程を3D・全方位視点のCG映像でガイドするという実証実験をエプソンと共同で行った。こうした実証の成果を踏まえ、アスカラボは近畿日本ツーリストにもこの技術を提供し、「江戸城天守閣と日本橋復元3Dツアー」として商品化している。スマートグラスをかけて江戸城跡と日本橋を観光し、江戸時代の臨場感を味わうというもので、使用するデバイスはもちろんMOVERIOだ。
エプソンは、B2B分野でのMOVERIO活用シーンが拡大した場合、業種・業務特化型のハードウェア開発なども検討していく方針だ。(本多和幸)