今、全国で約6500人のITコーディネータ(ITC)が活躍中である。地方のIT産業を活性化したり中小企業のIT化を促進したりする目的で2001年に誕生した資格制度で、有資格者はITと経営の両方の知識をもつ。資格保有者は全国に点在し、各地方のITCたちはコミュニティをつくって、各地方のIT産業の活性化に共同で力を尽くしている。いわば、地方にいる中小企業のIT事情を知るエキスパートだ。各地域のITCは、それぞれの地場IT産業の今をどうみているのか。この連載では、各地方のITCが届けてくれた声、地方の現実を都道府県ごとに紹介する。(構成/木村剛士)
京都府のITC
坂田岳史 氏(京都市)
2001年1月にITC資格を取得。独立系ITCとして中小企業にIT経営コンサルティングサービスを提供するほか、京都府内のITC関連組織「京都IT経営支援ネットワーク(KITN)」の代表を務める。ITCの認知度を高めるためのイベント企画・実施や講演を行う。
Q.自身の活動内容は?
A. 個人のITCとしては、「ブランディングIT経営」という名称で、主に中小企業に向けて、ITを活用した経営力向上のためのコンサルティングサービスを手がけている。
その一方で、ITCと地元のユーザー企業が接触する機会を増やす活動に積極的に取り組む。マッチングイベントの企画・実施には力を入れており、2014年6月にはユーザー企業やITCなどが集まったKITN主催の大規模イベント「IT経営カンファレンス2014 in Kyoto」を実施した。KITNでの活動では、ほかにも業務システムの導入だけでなく、業務自体の改革も行うコンサルティングサービスを、地元のITベンダーとコラボレーションして行っている。
また、公的支援機関が主催するイベントにも協力し、講演会やセミナーの講師を務め、ITを活用した経営の在り方について話してITCの普及・啓発活動も進めている。
Q.地域のIT産業の景気は?
A. 京都は、大企業の本社や工場がけっこう多くあって、その下請けでビジネス展開する中小規模の製造業も多い。また、年間5000万人以上の観光客が訪れる国内有数の観光地でもあり、観光業が盛ん。呉服関連や染関連、京扇子、京人形などの伝統産業もある。このように、京都はさまざまな業種・業態の中小企業が数多く存在する。全国のなかでも、類似地域が見当たらない特殊なエリアだろう。
中小規模の製造業は、大手の製造業者の景気に左右される。最近は、円安の影響で、大手製造業の業績が好調なので、受注が増えている企業もある。一方、観光業は、外国人観光客が増加傾向で、明るい兆しがみえている店舗もある。伝統産業は、業界自体が苦しい状況ではあるものの、伝統工芸の技術・技能を活用して、新しい商品を創出する動きがあり、一概に厳しい状況とは言い切れない。京都全体の景況感は楽観視できない横ばい傾向とは思っているが、このように各業界で明るい兆しもあると感じている。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. ITCの知名度・認知度が低いことが課題として挙げられる。中小企業の経営者たちは、ITCとはどのような存在で、手を組むとどんなメリットがあるかをそもそも理解していない。ITCが地方でビジネスを展開するにあたって、それが最も大きな壁になっていると認識している。
この問題を解決するためには、まず、ITCが中小規模のユーザー企業の経営をサポートして「業績が伸びた」「業務を効率化することができた」などの成功事例を、全国に広めるための仕組み、ITCの仕事、提供できるサービス、もっているスキルを具体的に知ってもらうことがとても重要だ。
もう一つの課題は、ITベンダーとのコラボレーションだ。地方の多くのITベンダーは、一部ではITCの資格を有効活用して、経営戦略の策定などの上流工程のサービスを提供し、成功している企業もあるが、決して多いとはいえない状況だ。
一般的に、ITベンダーは、依頼された仕様のシステムを、要求通りに構築するビジネスを手がけており、上流工程のサービスに踏み込むことができていない。
私は、独立系のITCとITベンダーが協力してIT経営を進めることが、お互いにとって重要なことだと思っている。私が代表を務めるKITNでは、上流工程に強いITCと下流工程に強いITベンダーをマッチングさせて協業し、ユーザーに価値の高いITを提供する活動を推進している。ユーザーとベンダーとITCの三者にとってのメリットがある。
いずれにしても、ITCの仕事内容をユーザー企業の経営者とITベンダーに広く知ってもらうという基本的な活動を推進することが、昔も今も変わりなく求められている。