「学而時習之,不亦説乎?有朋自遠方来,不亦楽乎?人不知而不慍,不亦君子乎?」論語の一節である。3月のWIDEプロジェクト合宿研究会に、長年の友人である中国BII社の劉東社長が参加して、中国の現状と今後の展望を講演してくれた。最近の日中関係の好ましくない状況は、日本人が中国の情報をあえて避け、意図的に「見ざる・聞かざる」状況にしているように思える。今回、劉東さんが、中国の急激なIT化・ネットワーク化とその産業規模の大きさ、さらに、数億人という大きな市場規模を前提にしたビジネスの挑戦が中国で行われていることを、生の声でWIDEプロジェクトのメンバーに伝え、大きな刺激を与えてくれた。日本が、「井の中の蛙」になろうとしていることを、みんなに実感させてもくれた。また、中国には既存のシステムが存在せず、いきなり世界最先端の技術を用いたビジネスの挑戦が行われていることを、その数字とともに示してくれた。さらに、今回の全国人民代表大会において、「インターネット・プラス」(互聯網+)という大方針が李克強首相から発表されたことも教えてくれた。バイドゥー(百度)やTencent(騰訊)に代表されるインターネット企業の成功を全産業に展開するという考え方であり、全産業のインターネット化と、インターネットを用いた全産業の効率化と変革を目指すというものだ。まさに、わが国で2000年頃に推進されたe-Japan戦略で議論された方向性であり、現在のIoT(Internet of Things)の考え方になる。
このような状況のなか、日本はどのような戦略を取るべきなのか? 長年の友を遠ざけるのではなく、「有朋自遠方来,不亦楽乎?」として、友と共に学び、「人不知而不慍(人が自分を認めてくれなくても不満をもたない)」で、挑戦しなければならないことを、WIDEプロジェクトの仲間と再認識することができたと思う。
われわれは、2010年頃から、スマートビルを実現するIEEE1888の標準化活動に中国BII社と一緒に着手し、この3月にISO/IEC国際標準規格に認められることに成功した。次は、米国と中国の国内標準化だ。IPv6からの古い友人が米国NISTと中国BIIにいて、この友人との協調・連携が、東大グリーンICTプロジェクトで採用したIPv6を用いたセンサネットワーク技術であるFIAPを世界の2大市場での標準化の道を開こうとしている。遠方の友に感謝である。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。