中小・零細企業のマイナンバー(社会保障・税番号)対応を、現場を熟知する社会保険労務士はどうみているのだろうか──。まず、情報システムの観点からすれば、中小・零細企業のほとんどは市販のパッケージソフトを使っていることもあって、マイナンバーへの対応はパッケージソフトのバージョンアップで対応可能だ。
むしろ、最も問題となりやすいのは、管理不行き届きによる「マイナンバー情報の散逸」だと、中島啓吾社会保険労務士事務所の中島啓吾氏(エヌ・ラボ代表取締役)は指摘する。つまり、情報システム以外の部分が問題になりやすいというわけである。マイナンバーは国のガイドラインに沿って、管理者とルールを決めて運用することが求められているが、この管理や運用を十分に理解していないと、不適切に取り扱ってしまったり、マイナンバー情報が散逸してしまう可能性が高まる。
そこで、中島社労士は、研修サービスなどを手がけるサートプロ(近森満CEO)と連携して、中小企業経営者を主な対象とする研修サービスに、この6月から本格的に取り組んでいる。折しもメンタルヘルスの維持・向上を目指す「ストレスチェック制度」が今年12月から義務化される(従業員50人未満は努力義務)ことから、マイナンバーとストレスチェック制度とをいっしょに学べる研修セミナーを開催したところ、「経営者や総務担当者からの参加希望が殺到している状態」(近森CEO)と、関心の高さをうかがわせる結果となった。
例えば、飲食店や小売店を複数、経営していて、お店のパート・アルバイトは店長が採用している形態があったとする。マイナンバーを集める方法として、手っ取り早く応募用に提出してもらう顔写真付き履歴書の名前の横にでもマイナンバーを書いてもらいたいところだが、実はこの方法は「基本的にはNG」(中島社労士)だという。採用するかどうかわからない段階でマイナンバーを集めることはできないし、仮に採用するとしてもマイナンバー管理者以外の従業員(店長など)が誰でもマイナンバーを見られる状況は、やはり好ましくない。
したがって、仮に店長がマイナンバーを集めるとしても、店長にもマイナンバー管理者としての知識を身につけてもらう必要があり、なおかつマイナンバーはマイナンバー専用の業務フローをつくって集め、最終的にはマイナンバー管理者の責任の下で管理することが求められる。パート・アルバイトの人数分だけマイナンバーが揃わないとか、不適切なフローでマイナンバーが送られてきた場合は本部側で受理しない、あるいは採用そのものを拒否するといった「断固とした姿勢で指導を行うべき」(同)事柄だという。
現場に適切な指示を出すためにもサートプロが手がけているような研修サービスを積極的に活用し、経営者や管理部門がマイナンバー運用に関する正しい知識を早期に身につけることが欠かせない。(安藤章司)

中島啓吾社会保険労務士(左)とサートプロの近森満CEO