東海地区の製造業を中心にクラウドサービスを提供するクロスクローバ。特徴は、そのクラウドサービスの提供方法にある。一般的なクラウドサービスは、申し込み後にすぐに使い始めることができるが、クロスクローバのサービスはカスタマイズを前提としている。基本機能を最低限に抑え、ユーザーのニーズにあわせて機能を追加していくスタイルだ。ただし、価格は一般的なクラウドサービスと同様に設定している。基本的にカスタマイズの費用は取らないで、ランニング費用のみとしているのである。(取材・文/畔上文昭)
創業後にリーマン・ショック

奥村典弘
代表取締役 クロスクローバの創業は2008年5月。創業直後に同社を襲ったのが、リーマン・ショックだった。「スタートからとても厳しい状況に見舞われたが、小さな会社だったのがよかった。社員を多く抱えていたら、どうなっていたか」と、奥村典弘代表取締役は当時を振り返る。
会社創業後は、まずシステム開発の下請けとして、SES(System Engineering Service)を事業の中心としていた。実績の乏しさに加えて、リーマン・ショック。東海地区でも多くの企業がIT投資を控えたため、派遣先が極端に減少した。普通ならとても耐えきれないところだが、東海地区の風土に助けられた。「東海地区はよくも悪くも、人間関係を大切にする。知人の紹介で仕事が回ってきて、リーマン・ショックを乗り切ることができた」という。会社の規模が小さいことが幸いした。
創業時の事業をSESで乗り切った奥村代表取締役だが、徐々に疑問を抱くようになる。「SESは指示されたことをこなせばいいので、決して難しい仕事ではない。その点で取り組みやすいといえるが、エンジニアのスキルアップへの役立ちは期待できない。また、時間と売り上げが比例するので売上高は安定しやすいが、伸ばすのが難しい」。創業から2年。奥村代表取締役は、事業の中心をSESから元請けになることに移した。
モバイル事業を展開
クロスクローバを創業する前の奥村代表取締役は、デバイス関連の事業を展開する会社に勤めていて、携帯電話向けのアプリなどを手がけた経験をもっていた。その経験をもとに、脱SESを目指すにあたって着目したのが、タブレット端末だった。
「業務システムをタブレット端末で活用するための開発を手がけた。ちょうどタブレット端末の活用を検討する企業が出てきた頃で、東海地区でタブレット端末に取り組んでいる企業が少なかったこともあり、順調に顧客を獲得できた」と奥村代表取締役。売り上げが伸び、脱SESの大きなきっかけとしただけでなく、タブレット端末向けの開発で得たノウハウを自社サービスに取り込んでいった。
中小企業に最適なクラウド
クロスクローバは、現在、SaaS(Software as a Service)分野のクラウドサービスに注力している。といっても、一般的なクラウドサービスではない。
「当社のクラウドサービスは、登録すればすぐに使えるようになるものではない。必要最低限の機能を用意して、残りはカスタマイズすることを前提としている。ユーザー企業の多くが中小企業ということもあって、価格を抑えるには、この方法が最適だと考えた」。
中小企業は、パッケージシステムやSaaSに搭載されたすべての機能を必要としているわけではない。そのため、パッケージシステムやSaaSをコスト高に感じてしまう。一方、スクラッチ開発ならユーザー企業にとって使いやすいものになるが、コストが高くつく。そこで奥村代表取締役は、一般的なクラウドサービスとスクラッチ開発の中間を狙ったのだ。つまり、クラウドサービスとして最低限の機能を用意し、不足する機能はカスタマイズで対応するというもの。料金は月々の使用料のみで、カスタマイズ料金は基本的に請求しない。
「売り切りのパッケージソフトビジネスは、収益が安定しないのでやらない方針にしていた。その点ではクラウドが普及してよかった。クラウドであれば、ストックビジネスとして収益を安定化することができる。IT資産を外部に置くクラウドに対して抵抗感を抱くユーザー企業はまだ少なくないが、徐々に浸透していくと考えている」と、奥村代表取締役は確信している。
脱SESを果たしたクロスクローバだが、いま振り返ると、奥村代表取締役にはSESはどうみえるのか。「好景気の波に乗り、東海地方でもエンジニアが不足していて、SESの需要は大きい。ただ、好景気はどこまで続くのか。SESではビジョンを描きにくい。なるようになるでは、会社は成長できない」。奥村代表取締役は、今後も自社サービスで競争力を強化していく考えだ。