GCT研究所は、業務システムの構築(SI)はどうあるべきかを徹底して追求してきた。創業社長である岡部摩利夫社長は四半世紀にわたる業務システムの構築経験を踏まえ、手組みのSIでもなく、また業務パッケージソフトを活用したSIでもなく、さらにはソースコードの自動生成でもない“第4のSI”を提唱。これを実践するためにGCT研究所を2006年に創業した。“第4のSI”とは、どういうものなのか──。岡部社長とそのビジネスパートナーであるソットヴォーチェの坂野泰士社長を取材した。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 GCT研究所
所在地 東京都千代田区
資本金 2億3750万円
設立 2006年10月
社員数 約10人
事業概要 GOAを実装した「iRYSHA」を活用したSI、ならびにセキュアなファイル共有「eクーリエ」の基盤開発などを手がける
URL:http://gcti.co.jp/ 挫折のなかから生みだした「GOA」

GCT研究所の岡部摩利夫社長(左)、ソットヴォーチェの坂野泰士社長 GCT研究所の岡部摩利夫社長は、大手SIerで業務システムの構築経験を積んだのち、業務パッケージソフト開発に打ち込んできた。当時の岡部社長の信念は、「システムを手組みするより、業務パッケージソフトを活用したほうがユーザー企業のIT投資対効果は明らかに高い」というものだった。
ユーザーが求める機能を随時パッケージソフトに反映していけば、いずれはカスタマイズなしで、パッケージのみで業務システムが構築できるはずだ、と。
しかし、「実際はそうではなかった」と、岡部社長は振り返る。どれだけ機能を拡充してもユーザーの要件は多様であり、事業環境の変化に合わせてユーザーの業務フローは頻繁に変わる。すべての要件をカスタマイズなしで対応するなど、不可能だった。
であるなら業務システムのつくり方を抜本的に変えるべきなのではないか。挫折のなかから模索を始めたのが「業務指向アーキテクチャ(GOA)」である。業務単位のサービスを組み合わせて、システムを構築する手法だ。
岡部社長は、業務を制御する技術「業務コントロールテクノロジー」の頭文字をとって、GCT研究所を創業して独立。2008年に「業務サービス」を組み合わせてシステムを構築する「GOA」をベースとしたシステム構築基盤「iRYSHA(イェライシャ)」をつくりあげた。
“第4のシステム開発”を実践
システム開発は、手組み、パッケージ活用、ソースコードの自動生成ツールの活用などの手法がメジャーだが、iRYSHAでは、業務に特化した“業務サービスコンポーネント”を組み合わせ、ユーザーの業務の変化に柔軟に適応できるGOAを採用。いわば第4のシステム開発の手法を実践したものだ。SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方を、業務システムに完全に特化させたとの見方もできる。これによって手組みのシステム構築に比べて「ざっと4倍速の構築」(岡部社長)を可能にした。
iRYSHAの考え方は、ユーザー企業や、ビジネスパートナーのSIerから大きな支持を得て、これまでにiRYSHAを活用したシステム構築案件は100あまりに達している。完全多言語対応のグローバル仕様であるため、どのような言語にも対応できる。実はこれはすなわちどのような業種・業務の専門用語、会社ごとに異なる用語にも対応できることを意味しており、多言語対応は「ユーザーの業務を指向したアーキテクチャと合致する一石二鳥の効用となった」と話す。
業務システムに適した情報セキュリティを研究
iRYSHA事業が軌道に乗ってきたものの、当面の課題は情報セキュリティの強化である。業務システムのグローバル対応がもはやあたりまえとなった現在、外部からのセキュリティ脅威の度合いは増すばかりだ。GCT研究所はGOAとは別に、業務システムに適した情報セキュリティのあり方を研究し、その成果の第一弾としてビジネスパートナーのソットヴォーチェの坂野泰士社長と連携するかたちで「eクーリエ」のサービスを、今年7月から始めた。
eクーリエは、ファイルをやりとりする端末(パソコンやスマートフォンなど)に専用アプリを入れて、セキュアにファイルを送受信するサービス。関連する特許も4件ほど申請中だ。ファイル共有は米Boxなどが勢力を伸ばすが、eクーリエでは、「既存の電子メールソフトのユーザーインターフェースを極力踏襲して、新たに操作方法を覚えなくてもいいよう設計」(坂野社長)。あくまでも既存の業務用途のシステムの付加価値サービスを念頭に開発している点が大きく異なる。
もちろん、電子メールとは異なり、eクーリエは暗号化された閉鎖系コミュニケーションであり、送信後の取り消しや、送付先の相手が閲覧したかどうかの“既読表示”といった使い勝手と情報セキュリティを両立させたサービスを実現している。基盤技術の開発やシステム運用はGCT研究所が担っており、iRYSHAを活用したSIと相乗効果を出してビジネス拡大を推し進める考えだ。