「リーマン・ショックでは一時的に仕事がゼロになった」と、リバティ・フィッシュの石丸博士代表取締役は当時を振り返る。SES(System Engineering Service)が事業の中心だったことから、不景気の影響で開発案件が滞ると、その影響をまともに受けた。仕事を失ったものの、新しいことに取り組む時間ができた。そこで石丸代表取締役は、かねてから脱下請けの切り札になると考えていたオープンソースのオブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」に取り組んだ。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 リバティ・フィッシュ
所在地 大阪市中央区
資本金 800万円
設立 2004年5月
社員数 20人
事業概要 ソフトウェア開発、オープンソースソフトウェア(Ruby、Linux)系システム開発および教育事業、制御系システム開発、ウェブ系アプリケーション開発
URL:https://www.libertyfish.co.jp/ 制御系の開発に強み

石丸博士
代表取締役 リバティ・フィッシュの創業は、制御系の開発案件がきっかけである。「当時、フリーのエンジニアをしていたところ、制御系の開発案件の依頼がきた。ただ、法人に仕事を出したいとのことだった」。仲間には制御系に強いエンジニアが多く、石丸代表取締役は法人化すればいけると判断した。2004年のことである。案件ありきの起業ということもあり、事業はすぐに軌道に乗る。創業時は5人だった社員は、パートナーを含めると、ピーク時には30人規模に膨らんだ。
ところが、08年にリーマン・ショックが起こると、その影響が出てくる09年には、仕事がゼロになってしまう。石丸代表取締役は、景気に左右されやすいSESの実態を目の当たりにする。開発案件はいずれ戻ってくるだろうが、いつまでもSESに頼っているわけにはいかないとの考えから、自立するために、もう一つの柱を模索することになる。
Rubyに活路を見出す
視察で島根県を訪れた石丸代表取締役は、オープンソースのオブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」と出会う。リーマン・ショックが起きた年と同じ08年のことである。石丸代表取締役は、「Rubyは短いソースコードで開発が済むなど、Javaの7~8倍ほど生産性が高い。Rubyには、これからのオープンソースの潮流を感じた」という。
そこにリーマン・ショックである。仕事を失い、時間ができたことから、Rubyに本腰を入れた。ところが簡単ではなかった。「当時はRubyを説明しても、なかなか理解してもらえない。そこで、Rubyを説明するための商材をつくって、展示会などに出品することでアピールした」。こうした取り組みが実を結び、ヘルスケア関連のシステムを受注する。以降は、介護システムや問診システムなどに横展開、またRubyやオープンソースに強いという評価による開発案件を受注するようになっていく。今では「Rubyなら関西でトップ3に入る」と、石丸代表取締役は自信をみせる。
こうした実績から、リバティ・フィッシュではRubyのメリットを広く伝えるべく、教育事業も実施している。対象は親子。「今は開発案件が多く、エンジニア不足が続いていて、企業が教育に投資するというムードではない。そこで、社会貢献の一つとして、次世代を担う子どもたちにRubyを体験してもらう取り組みをしている」。今後は、オープンソースのコミュニティに貢献する取り組みも始める予定だ。
不景気は怖くない
Rubyで実績をつくったリバティ・フィッシュだが、現在も売り上げの5割はSESが占めている。「Rubyをきっかけにして受託案件が増えたものの、売り上げの100%にしようとは考えていない。受託案件は、開発が終了した後に次がすぐにあるとは限らないなど、安定しない。SESは月々の売り上げがあることから、利益を確保しやすい。受託案件とSESの両輪で進めるのが好ましい」と石丸代表取締役は考えている。SESには今後も取り組んでいく方針だ。
とはいえ、受託案件も順調に獲得している。少しでも導入コストを抑えたいという顧客には、オープンソースのニーズが強いからだ。また、Rubyは生産性が高いことから、「開発中に条件が変わるような場合でも、対応しやすいというメリットがある。同様に、アジャイル開発にも向いている」と石丸代表取締役。開発に柔軟性を求める顧客の要望にRubyで応えている。
リーマン・ショックをまともに受けたリバティ・フィッシュ。RubyとSESが軌道に乗るも、絶えず危機感をもっているという。ただ、今後不況がきても、むしろチャンスになると石丸代表取締役は考えている。Rubyには高い生産性とオープンソースの価格競争力があるからだ。「不況はいつきてもいい。きたら勝負」。むしろ待ち遠しいといわんばかりだ。