勤務していた企業の業務用コンピュータプログラムを無断でコピーして持ち出し、後に設立した同業の会社の業務で使用していたとして、この会社の社長が著作権法違反で逮捕される事件があった。システム開発会社の社長も、持ち出した社長の依頼を受けて、当該プログラムを無断改変したとして、同様に著作権侵害で逮捕された。
この事件は元社員によるコンピュータプログラムのコピー持ち出しが問われたわけだが、昨今、企業のなかには、プログラムだけでなく、企業によって有用なさまざま情報がデジタル方式で保管されている。新日鐵住金がもつ鋼板の製造技術が、元社員によって持ち出され、韓国企業ポスコに流出させていた事件も記憶に新しい。このポスコ事件を契機に、不正競争防止法の営業秘密侵害罪が改正され、2016年1月1日から施行された。
大きな変更点は、罰金が、個人は1000万円以下、法人が3億円以下だったのが、それぞれ2000万円、5億円と引き上げられる。ちなみに懲役は10年以下で、罰金との併科もできる。さらに、ポスコ事件を教訓として、営業秘密を海外に流出させた場合は、個人が3000万円、法人は10億円と重罰化されている。犯罪で得た収益の没収もできるようになった。
企業にとって有用な情報を守るためには、平時より情報セキュリティ対策をしっかりと行い管理することが重要だ。自己が有用だとして管理している情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるか否かは客観的な有用性と非公知性によって判断されるものの、流出した情報が「営業秘密」に該当しない場合でも、先の事件の通り、対象が著作権で保護される「著作物」ならば、著作権法を駆使して守ることも可能であることは知っておいてもらいたい。
不正競争防止法と著作権法は、保護すべき対象も保護すべき法益も異なっているため、自社の情報を守るために適用できる場面も異なっているが、複数の法律を組み合わせて活用することによって情報を多面的に保護できるのだ。
今後は、不正競争防止法と著作権法を合わせた企業セミナーを開催して、この問題の啓発に努めたいと考えている。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。