企業システムの画面は、なぜダサいのか。画面デザインに予算をかけてこなかったからだ。SIerの強みは、ユーザー企業の業務を知り尽くし、現場で役立つシステムを構築するところにある。デザイン性はアピールポイントではないし、ユーザー企業も画面に関する要求をすることはほとんどない。その結果、企業システムはどれでも似たような画面構成で落ち着いている。「SIではデザインが空白地帯」とSIエージェンシーの木原真代表取締役社長。デザイン性の高さが同社の強みとなっている。(取材・文/畔上文昭)
iOSと業務系に強いSIer

木原 真
代表取締役社長 SIエージェンシーは、業務システム、ウェブシステム、iOS系の開発の三本柱で事業を展開している。基本は業務システムに強いSIerだが、iOSに取り組んでいるところに特徴がある。
「iOSアプリの案件を獲得すると、次に業務システムやウェブシステムにつながるなど、ドアノックとして有効活用している。また、業務システムなどに実績があることが信用力となり、iOSアプリ開発の案件受注につながっている」と、木原社長はiOSに取り組む効果を語る。iOSアプリは簡単に開発できるため、対応するITベンダーが多く、発注側となるユーザー企業がどこに発注すべきかを迷ってしまう。業務システムなどの企業向けで実績があれば、しっかりやってくれるとの印象を与えるというわけだ。
SIエージェンシーは、基本的に元請けで案件を獲得している。営業担当者は一人いるが、案件の半分以上は同社のホームページからの依頼である。「ホームページはSIerっぽくするのではなく、おしゃれにデザインして、iOSアプリの開発ベンダーのようにしている。でも、得意なのはSI(笑)」と木原社長。SIエージェンシーが工夫しているのはデザインだけではない。アクセス数を上げるために、検索サイトで上位に表示されるためのSEO対策にも積極的に取り組んでいる。「実は、SIerって意外とSEO対策をしていない。そのため、ちょっと取り組めば検索結果の上位に表示される」(木原社長)という。こうした工夫により、着実に業績を上げてきている。
脱SESでiOSに着手
SIエージェンシーがiOSに取り組むきっかけは、リーマン・ショックで売り上げが激減したことにある。エンジニア派遣やSES(System Engineering Service)を展開していたSIerの多くが、リーマン・ショックで生き残り策を模索することになるが、SIエージェンシーもその一社だった。
「リーマン・ショック前はSESが中心。リーマン・ショックがなければ、今でも変わっていなかったかもしれない。SESでは売り上げは大きいものの、利益が少ない。人数が増えると売り上げが増えるので、企業が成長しているように感じるが、実は何も成長していない。リーマン・ショックで案件が激減したことは、むしろ業務を見直すいいきっかけになった」と木原社長は当時を振り返る。
SIエージェンシーは、リーマン・ショックをきっかけにSES事業からの撤退を決める。案件をコントロールできる元請けとしての受託開発に事業をシフトさせた。ただし、シフトしたところで、競合となるSIerは数多い。特徴がなければ生き残れないと考えたときに、取り組んだのがiOSだった。「実は、最初に取り組んだときにはうまくいかなかった。資料が何もなかったから。しばらくすると、開発のための情報が得られるようになって、取り組んでみたら意外と簡単にできた」(木原社長)。iOSへの取り組みが早かったことも幸いし、iOSアプリ開発は同社の事業の柱となる。
おしゃれな業務システム
鳥取県出身の木原社長は、地元でホームページの制作や地元SIerへの常駐などをしていた。安定した仕事を得ていたが、自社サービスを開発したいとの思いを抱いて上京する。同時期にSIエージェンシーを立ち上げた。2003年のことである。自社サービスの開発はまだ途上だが、iOSに取り組んだことで、新たなSIのかたちを目指すという目標ができた。
「ウェブシステムの開発では、iOSのようにおしゃれなデザインにしてほしいという依頼がある。同様に業務システムも、おしゃれなデザインを取り入れていきたい。業務システムにはデザインという考え方がなく、まだ空白地帯。シンプルなデザインで、使いやすくする。目指すは、おしゃれな業務システム。機会があったら、チャレンジしたい」と、木原社長は語る。ただ、現状ではユーザー企業になかなか理解してもらえないとのことだが、あきらめずに提案を続けていく考えだ。