パッケージベンダーやソリューションベンダーにおいて、大企業への導入が一段落すると、次のターゲットとして中小企業を攻めるというのはよくあるケース。ところが、大企業に歓迎されたソリューションでも、中小企業はなかなか受け入れてくれない。問題は価格なのか仕様なのか。そこで初期費用が安く、必要な機能を選ぶことができるクラウドサービスを提案するが、やはり簡単には響かない。「ITありきの提案は中小企業では受け入れられない」とニックスの藤田一・代表取締役は考えている。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 ニックス
所在地 東京都渋谷区
資本金 1億円
設立 1982年3月
社員数 60人
事業概要 企業向け業務システムの提案、要件定義・設計などの上流工程から、プログラミング、導入後のサポート
URL:http://www.nics.co.jp/ ゼロからの開発が減る

藤田 一・代表取締役(写真左)
小池龍輔・取締役ICT利活用推進営業部部長 1982年設立のニックスは、自社開発のパッケージシステムをもっているものの、大手SIer向けのSES(System Engineering Service)を事業の中心としてきた。「営業活動をしなくても、担当者とのつながりで仕事がもらえるような状態が長らく続いていた」と小池龍輔・取締役ICT利活用推進営業部部長は語る。ニックスはむりな事業拡張をせず、堅実な経営をしてきた。
だが、リーマン・ショックで案件の激減を経験したことと、サービス化の進展などでシステム開発自体が減っていくとの考えから、元請けとしての案件獲得を目指すことになる。
「この先1年くらいでSESが減っていくと感じている。構築したシステムは更新して使い続けるなど、以前のようなゼロからの開発案件が減っているからだ。パッケージシステムでも、カスタマイズではなく、設定で対応するというケースが増えてきた。SESはプログラム開発があって初めて成り立つ。それがなくなっていくなら、違うスキルを身につけなければならない」と藤田代表取締役。ニックスは、SESが中心だった事業を大きく転換させる。2013年のことである。
中小企業を攻める
ニックスがターゲットとしたのは、中小企業だ。「中小企業の多くが、まだIT化に躊躇している。導入しやすいクラウドなら採用するのではという考えもあるが、必ずしも正しくない。ITを導入しただけでは使いこなせない」と小池取締役。価格が安い、導入しやすいだけでは、中小企業には支持されないというわけだ。
中小企業市場はIT投資の規模が小さい一方で、サポート力が問われるため、大手のITベンダーほど参入しにくい。「大手ユーザー企業は情報システム部などの専門部隊がいる。ITベンダーはその要求に応えればいい。ところが、中小企業には情報システム部がなく、経営者を説得する必要があるため、ITありきの提案は響かない。必要なのは経営の視点。それも、経営の悩みや課題の本質を聞き出す力が求められる」と、小池取締役は中小企業向けの戦略を語る。とくに経営の視点がないと、SIerはITに偏る提案をしてしまうため、まったく受け入れてもらえない。
経営の視点をITCで修得
中小企業向けには経営の視点が大事とはいえ、社員が身につけるのは簡単ではない。そこでニックスは、ITコーディネータ(ITC)の資格取得を社員に推奨した。「ITC資格は、経営とITの知識をバランスよく得られる。また、ITありきの提案ではなく、経営の悩みを解決するために、ITをコーディネートするための知識も得られる。ITC資格が案件獲得に直結するわけではないが、提案には確実に役立っている」と小池取締役。とくに部長と課長にはITC資格の取得を求めていて、現在では17人の社員がITCになっている。
こうした取り組みが功を奏して、ニックスでは案件数ベースでは半分以上が中小企業との直接取引になった。元請け案件では、社内でコントロールしやすく、納得した方向性で提案できるため、社員のモチベーションが違うという。また、一人の社員が、複数の案件を担えることから、開発の標準化を進めることで収益率を上げられるという効果も出ている。
「中小企業の案件はスモールスタートが多いが、元請け案件は一度こなすことで、別の案件を獲得でき、深く入り込んでいくことができる」と、小池取締役は中小企業向けの事業に手ごたえを感じている。また、藤田代表取締役は、「直接取引が確実に増えている。2年か3年先を考えると、この方向性は間違っていないとの確信がある。まだSESも続けているが、脱下請けを進めていきたい。大手SIerとは、下請けではなく、アライアンスというかたちを模索していきたい」と自信を深めている。