ハイテク企業やIT企業は、最先端分野の業種であるが、業界はまだ典型的な男社会である。ここに30才の若さで挑戦したのが、トラント(本社・渋谷区)の小川直子社長である。トラントとはフランス語で30。小川社長の意気込みを示す社名である。
最近は女性社長も増えている。しかし、介護や医療、美容、ホテル、レストランなど女性特有のこまやかな気配りの業種が多い。ハイテク企業や製造業はまだ圧倒的に男社会である。
そもそも日本の社会は女性エンジニアが少ない。今でこそ理系女などともてはやされ出しているが、小川社長が勤めた頃は全体の10%程度、これだとどうしても職場の花的な役割が多くなってしまう。
女性がハイテク企業、IT企業には向かないかというとそんなことはなく、ミャンマーに進出している日系IT企業のエンジニアの80%は女性である。日本の男性偏重には思い込み、固定観念の部分がかなり多い。
日本や韓国、台湾、中国という東アジアの国は男社会で、エンジニアは圧倒的に男性が多い。ところが東南アジアは、女性エンジニアの割合が大きくなる。仕事のこなし方の差はあるものの、本質的に男だから理科系に強く、女性だから弱いということはない。
女性社長ということで営業で不利なことはなかったという。女性社長で大丈夫なのかということよりも、珍しい会社だから一度頼んでみるかという視点が出てくる。どちらかといえば強みとなった局面が多かったという。
困ったことは男性エンジニアが集まりにくいことだ。男性エンジニアは男性上司がいいようだ。逆に、女性エンジニアは女性社長のほうが、産休や育児、残業と配慮が行き届いている筈だとばかりに求職希望者が多い。
男と女の間には超えがたい壁もある。当初小川社長は、側近に男女の分け隔てなく登用するというやり方を試みたが、やはり男性社員とは解かり合えない部分が多く、現在は女性を登用している。「無理をしても仕方がない。もっている特徴を生かす」これが小川社長の方針である。
トラントには男社会特有のにおいがない。自分がいつの間にか男社会特有のにおいに慣らされていることを確認する取材でもあった。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。