「新しいことに挑戦できる会社」を目指して、2008年に本山功代表取締役をはじめとする有志らでオレンジアーチを立ち上げた。SE一筋でキャリアを積んできた本山代表取締役は、自分たちにしかない独自の商材やサービスを思う存分に開発したいという思いで起業したものの、リーマン・ショックの直撃を食らって、「最初の3年間は惨憺たる有様」(本山代表取締役)を経験する。しかし、その後の事業は順調に拡大。直近では約120人の社員を擁して、さまざまな独自商材を開発するまで成長させている。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 オレンジアーチ
所在地 東京都足立区
資本金 2000万円
創業 2008年
社員数 約120人
事業概要 オレンジアーチは、業務アプリケーション系、組み込みソフト系、IT基盤系の三つの開発領域をバランスよくカバーし、画像処理やハードウェア製造に関するマッチングサービスなど独自のソフトやサービス商材も多数手がけている。
URL:http://www.orangearch.co.jp/ リーマンで出鼻をくじかれる

本山 功 代表取締役 新潟県生まれの本山代表取締役は、幼少期からコンピュータに強い関心をもっており、高校に進学する頃には自分でプログラムが組めるまでになっていた。社会人になってからは大手SIerのSE職に就き、プログラム開発で自らのスキルを生かす。しかし、SEの動員規模で1000人月超の大規模システムの開発に携わることが多くなるに従い、「自分がこのシステムのどのあたりを開発しているのか、わからなくなることが増えた」(本山代表取締役)。自分で何かをつくる実感を取り戻したいと考え、思いを共有する有志らとオレンジアーチを起業した。
起業直後は手持ちの資金、技術、人材ともに限られており、おまけにリーマン・ショックの直撃を食らって仕事そのものがない。「同業者にあたってみてもなかなか仕事がなく、自分も含めて起業後数年の給料はとても人に言えない額」だったと振り返る。当然ながら会計や給与計算などもろもろすべて自分たちでやらなければならず、予想以上のオーバーヘッドロスも加わった。それでもなんとか仕事を分けてもらい、絶対額はともかく、給料の遅配は一度もしなかった。
「対応力」でビジネスを軌道に
転機が訪れたのは起業から3年ほど経って、業務アプリケーション系、組み込みソフト系、IT基盤系の三つの分野の開発案件が、ほぼ同じ割合で受注できるようになった時だった。大手SIerのSEは業務系、組み込み系、IT基盤系の担当がそれぞれ分業化されており、「この三つのスキルを網羅的、横断的に身につけているSEは少ない」 (本山代表取締役)ことを経験的に知っていた。そこで、オレンジアーチでは意識的に三つの分野をバランスよく受注し、社内でスキルを共有することで業務アプリから組み込み、IT基盤まで一通り対応できる力量を身につけていった。この“対応力”が顧客から高く評価され、そのうわさを聞いた別の顧客からも引き合いや発注がくるようになる。
資金的な余裕や技術力、人材のめどが立ってきた段階で、自社商材の開発に着手する。まずは東京電機大学と産学連携で画像解析の共同研究をスタートさせた。以来、画像解析はオレンジアーチが開発する独自商材の中核技術の一つになり、人物の写真から顔の輪郭線を正確に抽出したり、写真を水彩画、油絵などの絵画風に変換したりする技術などに応用。輪郭線の抽出では、例えば、美容室で、客の顔をスマートフォンで撮影し、頭髪の部分だけ別のものに差し替えて「仕上がりイメージを示す」といったアプリ開発に役立てている。こうした独自のアプリ群は10種類を超えており、自社の技術力を顧客にわかりやすく示すショールーム的な役割も果たしている。
自社商材の開発が評価高める
社内ではハッカソンやアイデアソンを開いて、業務系、組み込み系、IT基盤系のそれぞれの領域で新しく習得した技術やアイデアを交換、融合させることで、技術的な見識を広げたり、画像解析をはじめとするオレンジアーチらしい特徴的な商材開発につなげたりしてきた。また、地元足立区周辺には中小製造業が多く点在していることから、ハードウェアベンチャーなどと製造メーカーをマッチングさせる「MAKER'S TICKET」を行っている。メーカーの製造に関するサービスをチケット制で利用できるのが特徴だ。
こうした取り組みは、特徴ある技術やサービスの創出を促進し、開発意欲が高いSEの育成に役立つ。顧客企業からは「技術力やモチベーションが高いSEが多くいるオレンジアーチ」と評価され、ここ数年のSE稼働率は100%近くで推移。稼働率が高いため、営業にあたっているのは本山代表取締役を含む数人だけ。それでも、常時取引がある顧客だけでも60社を超える。約120人のSEを顧客数で単純に割ると1社あたりに担当するSEは2人ほど。特定の1社に大量に人を送り込むのではなく、本当に技術力や対応力のある少人数のSEで顧客の要望に応えていることから、顧客にとってはコストパフォーマンスがよく、オレンジアーチにとっては営業にかかる間接費用を圧縮し、SE一人あたりの利幅改善につなげている。