AI(人工知能)の活用が進むなか、コミュニケーション・ロボットがにわかに脚光を浴びている。この端末は、人形のようであったり、あるいはディスプレイやスピーカーだけの簡素な構成であったり、形態はまちまちだが、共通していえるのが 「自然言語処理」のアウトプット先として有力視されていることだ。(取材・文/安藤章司)

野村総合研究所の長谷佳明上級研究員(左)とNRI ITソリューションズ・アメリカの幸田敏宏・上級テクニカルエンジニア 自然言語処理は、AIらしく振る舞うための必須機能で、IBM Watsonでもソフトバンクと共同して日本語版を開発するとき、同機能を最優先に位置づけている。富士通やNECなど他のITベンダーのAI商材をみても同様だ。人間の日常会話に溶け込むには、「会話に適した何らかの“物理デバイス”が必要になる」と、AIに詳しい野村総合研究所(NRI)の長谷佳明・デジタルビジネス開発部上級研究員は指摘する。
NRIでは今年2月、日本航空(JAL)と共同でコミュニケーション・ロボットの実証実験を羽田空港で行ったが、そこで得られた知見の一つが「その場の会話でしか有効的に伝えられないことがある」(NRI ITソリューションズ・アメリカの幸田敏宏・上級テクニカルエンジニア)だった。JALでは座席予約などを行うスマートフォン向けの「JALアプリ」を開発しているが、このなかに富士山が飛行機のどちら側に見えるかがわかる「富士山どっち?」という機能がある。一般的にはあまり知られていない機能かもしれないが、実証実験では、今まさに飛行機に乗ろうとしている顧客には「非常に効果的に案内ができた」(同)と話す。
同じことがNRIとアサヒグループホールディングスとの実証実験でも確認されており、このケースでは飲料の自動販売機にコミュニケーション機能を実装。今、まさに飲料を買おうとしている顧客に、「こちらの飲料はこんな味で、おススメです」と案内すると、高い確率で印象がより強く残る。とりわけ訪日外国人は、日本でしか売っていない飲料の味は知るべくもなく、なおかつ外国語で案内することで、販売促進につながるというのだ。
日常生活では、よほどのことがない限り「富士山の見える座席」や「自販機の飲料」のことは考えないし、脈絡もなく宣伝されても心に響かない。自然言語技術によって、その場で客に話しかけることをAIで実現できれば、従来、難しかったマーケティングを容易にすることも可能になる。

羽田空港で実証実験を行ったコミュニケーション・ロボットの同型機。
出典:仏アルデバランロボティクス社の公式HP