木村情報技術(佐賀市、木村隆夫代表取締役)は、IBM Watsonを活用したコンタクトセンターの構築に取り組んでいる。医薬品に関して医師などからの問い合わせに対応するコンタクトセンターをサービスとして提供することを想定しており、主な顧客は製薬会社となる。

橋爪康知
取締役CIO 医薬品は高度な専門知識が求められることから、医薬品の問い合わせ窓口では、「初期対応」や「専門家から回答」「研究所の研究員からの回答」といった、問い合わせのレベル感に合わせて3階層くらいに分けているケースが少なくない。木村情報技術は、この点に着目。「IBM Watsonを使うことで、初期対応の段階で解決できる割合を増やせる」(橋爪康知取締役CIO)とし、自社のコンタクトセンターにWatsonを採用することを決めている。
Watsonの自然言語能力は、まだそれほど高くないが、専門的な領域に特化していれば十分に実用レベルに到達できる。見方を変えれば専門的な知識をどれだけ多くWatsonに学ばせるかで使い勝手が左右されるともいえる。木村情報技術は、もともと製薬業のMR(医薬情報担当者)が、自社の医薬品の情報を医師などに伝えるためのオンライン講演サービス「3eLive」を手がけており、医薬業界に関する知識と経験は豊富にある。医薬品の専門用語と各種データにもとづく解決方法をWatsonに学ばせることで、「コンタクトセンターでの初期対応の品質を大幅に高められる」(橋爪取締役)と期待している。
想定しているケースは、例えば、患者が複数の医薬品を併用している場合で、医師がそれらの薬の飲み合わせや副作用の情報を知りたいと思ったとき、従来は複数の製薬メーカーに問い合わせる必要があった。木村情報技術では、複数の製薬メーカーから初期の問い合わせの窓口業務を請け負うことで、医師は1か所に問い合わせれば、複数メーカーの情報を得られるようにする。また、ジェネリック医薬品のメーカーは中小規模も含まれるため、自らコンタクトセンターを運営するより、アウトソーシングしたいというニーズはもとから高かった。
ただ、コンタクトセンターの窓口をWatsonだけに任せるのは、まだ荷が重い。いくら医師や製薬メーカーから協力を得て、専門用語に対応できるコーパス(言語資料)を開発しても、「言葉の揺らぎや、方言、世代による言葉の違いまではカバーしきれない」(同)。このため、まずは問い合わせしてきた医師とオペレータ(人間)の会話を踏まえて、Watsonが適切な回答候補を提示するといった“オペレータの助手”としての役割を担わせる予定だ。
Watsonの採用を決めた背景には、米本国でWatsonが医薬業界で成果を挙げていることと、国内には外資系の大手製薬メーカーも少なくないことから、その実績と知名度を評価。同時にマスターディストリビュータのソフトバンクとしても、医療・製薬分野をWatsonの有望市場とみていることから、木村情報技術をエコシステム・パートナーに選定している。