この5月、AUTOSAR開発を手がけるAPTJ(高田広章会長=名古屋大学教授)は、2回目の第三者割当増資を実施し、新たにキヤノンソフトウェアが出資に加わると発表した。すでに資本参加済みの富士ソフト執行役員で、同社のAUTOSAR事業の指揮を執る三木誠一郎氏がAPTJ社外取締役に就くとともに、AUTOSARでスズキとの共同研究を行うことも明らかにしている。APTJの自動車関連メーカーとの共同研究は計4社目となり、今年度内にさらに1~2社が共同研究に加わることを目指すとしている。
一方、国内ライバルのSCSK陣営は、詳細は明らかにできないとしながらも「顧客からの引き合いは強い」(SCSKの谷原徹社長)とし、AUTOSAR事業を同社の新事業の柱の一つとして引き続き力を入れていく方針を示す。
本連載1回目でレポートした通り、今、車載組み込みソフトビジネスは「AUTOSAR」によって大きく様変わりしようとしている。自動車向けの共通プラットフォーム(OS)の普及によって、従来のマイコン単位で組み込みソフトを手組みする労働集約型のビジネスは縮小する可能性が高く、代わりにAUTOSARをはじめとする共通基盤上で付加価値の高いアプリケーションを競い合う時代に突入する。
欧州発のAUTOSARは、地元ドイツのベクター、米国のメンター・グラフィックス、そしてインドの有力ソフト開発ベンダーであるKPITなどが、AUTOSARの規格を決める欧州での活動の草創期から参画。国内自動車メーカーで長らく開発に携わり、今はKPIT日本法人副社長を務める山ノ井利美氏は、「共通プラットフォームなしに車載ソフトウェアを開発し続けることはもはや困難」と指摘している。自動車の付加価値の中心はソフトウェアが占めるようになり、開発ボリュームは飛躍的に増加し続けているため、コストの削減や品質向上、開発期間の短縮を図るには、車載ソフトに特化したOSであるAUTOSARを採用するのは「自然な流れ」と話す。

KPITの山ノ井利美副社長(左)とアミン・カン スペシャリスト
共通プラットフォームによって従来型の組み込みソフト開発が影響を受けた過去の例としてよく挙げられるのがスマートフォンであるが、スマートフォンの場合、早い段階で技術的な成熟点に達してしまい、ソフトベンダーにとってのビジネスの伸びしろは限られたものだった。この点、今の車載ソフトは「成熟にはまだほど遠いものがあり、これから幾度も技術的な突破口や革新を経験していくことになる」(KPITのアミン・カン・AUTOSARスペシャリスト)と、ソフト開発ベンダーにとっての伸びしろが大きいとみる。
運転自体を楽しむスポーツカーやオートバイとは異なり、これからの一般向けの自動車は、より安全に、より快適に移動するロボットのような存在になっていくと思われる。(つづく)