東京都情報産業協会(IIT)の根本健時会長(システムコーディネイト社長)の「SI論」は、「再現性のあるビジネス」の実現だ。大型プロジェクトの有無や景気変動の影響を受けにくく、持続可能なビジネスを根本会長は「再現性のあるビジネス」と呼ぶ。大型プロジェクトに十把一絡げで動員される「作業者」ではなく、「技術者」をビジネスの主役に位置づけ、自社の付加価値の源泉にすることで、外部環境に左右されにくいビジネスモデルの構築を目指す。
Company Data団体名 東京都情報産業協会(IIT)
所在地 東京都中央区
設立 1985年5月
会員数 170社
事業概要 東京都情報産業協会(IIT)は、30年余りの歴史をもつ情報サービス業界団体である。今年4月に旧日本ソフトウェア産業協会(NSA)から名称を変更。首都圏により密着した活動方針を示している。
URL:https://www.nsa.or.jp/ 「再現性のあるビジネス」を重視

根本健時
会長 東京都情報産業協会(IIT)は、今年4月に旧日本ソフトウェア産業協会(NSA)から団体名を変更。協会の会員数約170社のほぼ9割が首都圏に本社を構えることから「東京地場の情報産業の協会」(根本会長)である実態を団体名に反映した。もう一つ、東京都から情報サービス業界の接点をより強化したいという要望があり、頭に「東京都」をもってきた。首都圏の情報サービス業界の意見を取りまとめ、東京都と対話できる立ち位置をより明確化することで、全国団体で主に国との対話チャネルがある情報サービス産業協会(JISA)との役割の違いを明確にしている。
根本会長は、旧日本ソフトウェア産業協会時代から14年間副会長を務め、昨年6月に会長に就任した。自身の会社であるシステムコーディネイトでは、創業社長として33年にわたって経営の指揮を執ってきたこともあって、オーナー社長が多い中堅・中小SIer経営者から共感をもって迎え入れられた。根本会長の持論は「再現性のあるビジネス」の実現。1983年にシステムコーディネイトを創業してからこれまで、幾多の景気変動や経済変調の荒波に揉まれながらも、ほぼ右肩上がりで成長してきたカギを握るのが、この「再現性のあるビジネス」を重視する姿勢である。
「担う役割」が自ずと違ってくる
プロジェクト型のビジネス形態が多い情報サービス業界では、例えば「大手金融機関の基幹系システム更改」といった大型プロジェクトが立ち上がると、大量にSEを動員して開発。プロジェクトが収束すると、途端に仕事にあぶれてしまうケースが散見される。ましてや大きな景気変動が起きると、SEの稼働率が低下し、雇用の維持すら難しくなってしまう。労働集約型の大型プロジェクトに動員され、システム開発に従事する仕事を「否定するつもりはないし、すべての仕事は貴いものである」(根本会長)としながらも、「作業者」を動員するタイプの仕事と「技術者」を売りにする仕事とでは、「担う役割が自ずと違ってくる」(同)と話す。
カスタム業務アプリケーションを手組みする時代から、クラウド上でサービスを組み合わせる方式が主流となりつつある時代へと変わるなか、かつてのような“作業員動員タイプ”の大型プロジェクトのボリュームは減少していくとみられている。そういった流れのなかで、ビッグデータ分析やIoT、AI(人工知能)、あるいはFinTechやEdTechなどのxTech系の企業経営をデジタル化するコンセプトを取り込んだ技術本位のビジネスを愚直に組み上げていったほうが「再現性」を出しやすく、先の長い継続的なビジネスが可能になる。
スタートアップ企業も大歓迎
では、どうしたら「再現性」を高められるのか──。それには先進的な技術を身につけた技術者の育成と、技術者に育てるための若い人材の確保が欠かせない。大手でも人材の確保に苦心するなか、中堅・中小のSIerは人材の確保が大きな課題となっている。東京都情報産業協会(IIT)では昨年、会員企業のなかから募ってIT系の教育機関向けに10回ほど合同企業説明会を開いているが、今年度はさらに増やして15回ほど実施したいと意欲を示す。また、経営者や技術者が新しいトレンドに気づいたり、ビジネスのヒントが得られるようセミナーや研修会も意欲的に開催。昨年度は延べ4000人がIITが開いたセミナー/研修会に参加する盛況ぶりだった。
会員社数も増える傾向にあり、「クラウドやウェブ系、ネットワーク領域で活躍する首都圏のスタートアップ企業にも積極的に当協会に参加してほしい」(根本会長)と、若いスタートアップ企業にもIITへの参加を呼びかける。根本氏のシステムコーディネイトも、カスタムアプリの開発だけでなく、意識的にネットワークやサービス事業をバランスよく手がけており、「情報サービスを突き詰めるとソフトとネットワーク、サービスをいかにコーディネートするかにかかっている」と話す。これが景気の変動時にも売り上げを落とさない経営につながっている。IITにおいてもカスタムアプリの開発だけでなく、幅広い層に参加してもらい、首都圏の情報サービス業の健全な発展につなげていきたいとしている。