内閣府が、総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案および総合調整を行うことを目的とした『総合科学技術・イノベーション会議』の「システム基盤技術検討会」の委員として参加させていただいている。日本は、『超スマート社会』の実現を目指すというシナリオとなっており、ICTの役割の必須性と重要性が強く認識されている。超スマート社会の実現に向けては、「IT総合戦略本部」および「サイバーセキュリティ戦略本部」との連携を強化しながら、日本が強みを有する研究や技術を伸ばしながら推進すべきと記述されることになる予定である。また、IoT(Internet of Things)の推進と、それらの「システム化」の必然性と必要性が強調されている。この動きは、従来の情報通信産業に閉じるものではなく、すべての産業領域に適用され、すべての産業が、規模の違いはあれ、IT産業およびインターネット産業の顧客であり市場となることを意味している。
「超スマート社会」とは、単に便利で快適な社会・産業活動ではなく、さらに、安心・安全が付加されていることが要求されることになる。その際、データセンターが情報通信インフラの中核拠点となり、移動可能なIT機器や膨大な数のセンサがインターネットに接続され、高度なビッグデータ解析が行われるモバイルクラウド環境が構築されることになるであろう。
総合戦略では、20年の東京五輪・パラリンピックの開催に向け、通信・放送、電力、交通などのクリティカル・インフラストラクチャのスマート化の推進が提案されており、インフラの構築・整備においては、十分なサイバーセキュリティ対策が適用されたサービスの提供が行われなければならないとされた。すなわち、システム全体の企画・設計段階からセキュリティの確保に取り組む「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方にもとづき推進すべきとの方向である。このセキュリティ・バイ・デザインが適用されるべき対象は、従来のIT/ICT機器だけではなく、個別の機器やセンサを含むものとならなければならない。さらに、業種ごとのセキュリティオペレーションセンターの整備の必要性も記述される方向である。IT/ICT産業が貢献しなければならない産業領域が急拡大することになると考えなければならないことを意味する。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。