パナマの法律事務所、モサック・フォンセカが作成したとされる、いわゆる『パナマ文書』。顧客名簿と関連文書のデータが世界中を震撼させている。アイスランドの首相の辞任、幻の名画発見とインパクトの大きなデータリークだが、今後も続く「不都合な真実」解明は興味深い。
マネー資本主義において、資産は口座名と数字、そして文書としてデジタル化される。デジタル化されたデータは、瞬時にコストゼロで世界を駆け巡り、共有される。
さて、ビッグデータの時代だといわれながらも、私たちの身のまわりでのデータ活用はいっこうに進んでいない。民間、行政に限らず、多くは自らが取得した数少ないデータを紋切り型の分類と集計でグラフにして使っているに過ぎない。データがインフォメーションになり、インテリジェンスに変換される作業を行わなくては、データはデータのままである。
20年ほど前、当時いた会社の役員と一緒に米国のあるトップ企業を訪ねた。その時に役員が、「御社の経営関連のレポートは大変分析的であるが、専門部署があるのか?」と先方の役員に聞いた。すると、「いや、私が自分でSQLを書いている。役職が上がるとアクセスできるデータベースの種類と数が増えるのだ」と答えた。データアナリストを使っているという回答を期待していただけに、大変驚いた。
戦略を立てる際に、データにもとづいた仮説検証は欠かせない。誰かに任せるより、自分で切り口を考え、分析するほうが早い。思わぬ発見もある。戦略論を語る前に、データ解析を自分でできることのほうが役員の素養あるいはビジネスの基本的作法だと、その時感じた。
政府のまち・ひと・仕事創生本部と経済産業省が提供している「地域経済分析システム」をはじめとして、今後IoTでますます活用が可能なデータが増えていく。従来の売上データには多くの購買属性が追加され、携帯キャリアのデータをはじめとする移動体のデータも増加する。
そうしたなかで、わが国のデータアナリスト教育は大きく立ち遅れている。大学を出ていたらSQL文くらい書けるようになっていなくてはいけない。高校でのデータ活用の学習と演習、大学での教育。さらに必要なのは、私たちがふだんからデータで語ることに慣れることである。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。