SCSKと組み込み主要6社からなるAUTOSAR準拠「QINeS(クインズ)」OSの開発陣営に当初から参画しており、AUTOSARと関連するソフトウェアの開発手法の改善と品質の最適化に尽力しているビジネスキューブ・アンド・パートナーズ(Biz3、ファン・マヌエル・エステベス社長)。同社は車載用ソフトウェア開発に特化した国際的な成熟度モデルである「Automotive SPICE(オートモーティブ・スパイス)」の普及促進のコンサルティングサービスに力を入れている。(取材・文/安藤章司)
SPICEは、いわば業務系ソフトウェア開発の成熟度モデル「CMMI」の “車載ソフト版”との位置づけで、国際標準化機構(ISO)でクルマの機能安全を標準化する「ISO26262」とも密接な関係にある。Biz3は国内におけるSPICEの“伝道師”的な役割を担うものだ。

田渕一成
シニアディレクター 車載システムは、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転の趨勢のなかで、開発ボリュームは指数関数的に伸びることが見込まれている。その一方で、これまで個別のECU(電子制御ユニット)で制御していたクルマの「走る、曲がる、止まる」の基本動作は、「ますます統合化が進み、ソフトウェア処理でクルマの挙動を一元的に制御するアーキテクチャへと変わる」と、Biz3の田渕一成・コンサルティング事業部シニアディレクターは予測している。
車載ソフト開発の規模が拡大し、統合化が進むことで、ソフトウェアが自動車の安全性を大きく左右する。このことから、「自動車関連メーカーは、組み込み開発ベンダーに対して、品質や安全性に関する客観的な指標にもとづいて開発し、過不足ない品質を求める傾向が一段と強まっている」(田渕シニアディレクター)と指摘。従来のECU向け組み込みソフト開発は、人海戦術で徹底的にバグ(不具合)を潰す「労働集約型、属人的」な手法が散見されたが、ソフト開発の規模が大きくなればなるほど、SPICEのような品質レベルを担保できる手法が欠かせなくなるというわけだ。
CMMIでもそうだが、SPICEにおいても、ただやみくもに品質を高めることを目的としていないところがポイント。安全に関わる根幹の部分は高いレベルを要求し、そうでない部分は低レベルの成熟度合いでも認める。大規模なシステム開発では、枝葉末節まで高レベル品質を要求していては、とてもコストや納期に見合わない。開発成熟の度合いに「メリハリ」をつけながら、システム全体として最適化していく。業務システムの大規模開発では一足早くこうした手法が採り入れられていたが、車載システムの大規模化によって、組み込みソフト開発でもSPICEのアプローチが必須になるとBiz3ではみている。
ソフト開発を得意とするインドなどの成長国では、いち早くSPICEを採り入れているという。自動車関連メーカーからすれば、SPICEの成熟度モデルが適用されていることで、国を問わず世界中から要求品質にあったAUTOSAR対応のソフトを、安価に調達できる道が開ける点は、国内組み込み開発ベンダーにとって追い風にも脅威にもなる可能性がある。