プロキシサーバーは、ウェブサイトへのアクセス集中を防止したり、不正サイトへのアクセスを制限したりするために利用される代理サーバーであり、一般的に利用されている。ところが、アクセスした先のウェブサイトにはプロキシサーバーのIPアドレスしか残らないため、アクセスした履歴を隠すことになる。ここに着目してプロキシサーバーが犯罪に悪用される場合がある。
昨年11月、15都道府県警察合同捜査本部は、他人の認証IDを不正利用してインターネット接続していたプロキシサーバー事業者を、不正アクセス禁止法違反容疑で一斉摘発した。事業者は、中国からのインターネット接続を取り次ぐための中継サーバー事業を日本国内で営んでおり、インターネット接続事業者が第三者に付与していた認証ID・パスワードを不正利用して不正アクセス行為をしていたというのである。
この捜査の過程で、今年2月、プロキシサーバー運営会社の社長ら2人が、不正アクセスではなく、著作権侵害容疑で逮捕されている。この2人は、違法にコピーしたコンピュータソフトをプロキシサーバーとして稼働させ、業務で利用していた。著作権者の許諾なくコピーされた複製物を、それと知ったうえで業務に利用するのは著作権侵害にあたるのだ。
ネットワーク経由だったりデジタルデータだったり、昨今の犯罪は罪状が複合的になる場合がある。例えば、企業の営業秘密をコピーして盗み出せば不正競争防止法違反だが、それらが著作物であれば著作権の問題にもなるし、ネット経由の場合なら不正アクセスの問題にもなるだろう。罪状が複合的であるために、著作権侵害を端緒として事件化されることも実際にある。
このプロキシサーバーの事件では、新しい犯罪の形にすばやく対応した警察に感謝するとともに、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)も、結果としてネットワークの安全に貢献できたと思う。ネットワーク上での犯罪は、被害にあっているかどうかわかりにくいうえ、知らないうちに犯罪に加担している場合もある。皆がセキュリティ意識を高める必要があるところ、私たちは著作権を切り口にネットワーク社会全体の安定に資するため啓発を進めている。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。