ブロックチェーン技術の実証実験は、金融機関が主導するもの以外でも進んでいる。ソフトバンクが手がける「国際募金プラットフォームのプロトタイプ開発」は、そのプロジェクトの成り立ちから実施形態まで、ユニークな取り組みが光る。(取材・文/本多和幸)

坂口卓也担当課長 ソフトバンクでブロックチェーンを活用した国際募金プラットフォームのプロトタイプ開発を主導しているのは、ITサービス開発本部だ。坂口卓也・ITサービス開発本部BRM推進室担当課長は、「孫さんがやれって言ったんでしょと多くの人に言われるが、それは違う」と笑う。
ソフトバンクのIT部門は、8割~9割の人員が通信事業向け情報システムのメンテナンスに従事しているが、ITサービス開発本部は、そうした自社事業のためのシステムのなかで汎用性があって売れそうな機能をピックアップして外販するほか、新しい技術を使ったサービス開発そのものも担当している。
「まずはIT部門として、注目の新技術の理解を深めるために具体的なプロジェクトを立ち上げた」という。
既存技術の置き換えでは夢がない
ブロックチェーンの用途として国際募金のプラットフォームを選択したのはなぜなのだろうか。坂口担当課長は、「お金儲けのためのモデルにしてしまうと、さまざまなプレイヤーの利害関係が出てきて、サービス設計が難しくなる側面がある。まずは技術的な理解を深めるというのとは別のところで、心を配らなければならなくなるという危惧があった。一方で、プライベートなネットワーク上でブロックチェーンを動かして業務効率化やコストダウンを狙うというのもあまり夢がないと感じた」と説明する。既存技術の置き換えではなく、社会に役立つ、新しいビジネスをブロックチェーンを使ってつくりたいという発想で、国際募金に注目したという。
技術的には、「ブロックチェーンの特徴として、永続性や堅牢性、分散性が指摘されることが多いが、われわれはトレーサビリティも非常に大きい要素だと考えている」という。これも、国際募金プラットフォームにブロックチェーンを活用しようと考えた理由の一つだ。「ユーザーの視点に立つと、募金というのは自分が寄付したお金がその後どうなったかわからない。実際にある団体に1000円寄付したとして、それがどこに集められて、どんな下位団体に流れて、どこに国際送金されてどのように使われたというのが全部みえると、すごくクリーンになる」と、坂口担当課長は話す。実際には自分が寄付したお金が事務手数料などに使われたとしても、それが可視化されて使途の透明性が担保されれば納得しやすいというわけだ。ソフトバンクは、そこに社会的意義を見出している。