先日、都内での講演で「アベノミクスで金融緩和、財政出動、規制緩和、構造改革、地方創生、すべてをやってもこのままの状況なら、今後10年おそらくゼロ成長は終わらず、デフレは続くと思います。この20年、アメリカ、韓国、台湾ともGDPが倍になっています。なんで日本だけゼロ成長なのか。それは、国内の貯蓄額より投資額が小さいからです。解決法は貯蓄を減らすか、投資を増やすかのどちらしかないのです」と話したら大受けした。
マイナス金利、50年国債、ヘリコプター資金など次第に効率の悪い方へ資金は流れ出している。今日の状況の根本的原因は、国民資産残高1500兆円、企業の内部留保金360兆円など日本人のもつ生真面目さからきている。経済というのは、金が余ったから日銀に預けておけばよいというものではない。
ここで、日本経済の救世主となるかもしれない存在が現れた。クラウドファンディングという新しい金融システムだ。市中から資金を募り、厳選した事業会社に貸し付ける。クラウドを使ったファンディングシステムである。
最大手であるmaneoの味形衛シニアマネジャーにお聞きすると、現在同社の投資者は3万人、累計投資金額は500億円を超えている。預託手続きは私でもできる簡単な仕組みである。口座設定料も手数料も発生しない。一人あたりの投資金額は、300万円未満で75%を占める小口資金である。一方、1000万円以上が7%と大口もあり、冷蔵庫に入れているような銀行預金よりは効率的に資金運用をしたいという顧客を取り込んでいる。
さて、運用先である。基本的には不動産担保ローンを軸とした金融商品ですでに5社と協力して投資をしている。第1は商業施設担保会社、第2が中小企業向けリース会社、第3が米国の住宅担保融資会社、第4が香港の消費者金融など、第5が米国ローン債権回収会社である。今まで、maneoの投資者に予定配当を支払えなかったことはないそうである。
国内の既存の金融機関は新しい投資先、融資先を開拓する能力が少し弱すぎるのではないか。というよりも、貸出先がいくらでもあった成功体験がいまだに染み込み過ぎているのではないか。このクラウドファンディングシステムは日本を変える気がする。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。