日本取引所グループ(JPX)は8月30日、「金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」と題したワーキングペーパーを公表した。ブロックチェーンの市場形成に大きな影響を与える可能性がある。(取材・文/本多和幸)
昨年末頃から、国内でも金融機関や大手ITベンダー、スタートアップなどが手を組み、相次いでブロックチェーンに関する実証実験が立ち上がったが、まだ基礎研究段階のものも多く、詳細が公表されているものはほとんどない。しかし、JPXのワーキングペーパーでは、ブロックチェーンの技術そのものの定義や実証実験の詳細、そしてタイトルどおり、ブロックチェーンをどんな領域でどのように活用できそうかについて、かなり具体的に整理している。識者からも、「しっかりまとまったレポートで、ここまで踏み込んだ内容のものはこれまでほとんどなかったのでは」と評価する声が上がっている。
二つの実証実験をもとに知見をまとめる
今回のワーキングペーパーは、JPXが進めてきた二つの実証実験の結果をベースにまとめられた。一つは、日本IBMとの協業で進めてきた低トランザクション市場を想定した実証実験だ。Linux Foundation傘下で発足し、IBMとの関わりも深い「Hyperledger Project」のフレームワークを利用した。もう一つは、野村総合研究所(NRI)と共同で取り組み、カレンシーポートが技術協力した実証実験で、証券市場へのブロックチェーン適用を模索した。こちらの実証実験では、スマートコントラクトの基盤としての活用を目指してビットコインのブロックチェーンを改良・拡張した「Ethereum」ベースの技術を採用した。なお、いずれの実証実験にも、国内金融機関6社(SBI証券、証券保管振替機構、野村證券、マネックス証券、みずほ証券、三菱東京UFJ銀行)が参加している。二つの実証実験は、採用した技術や検証範囲などに違いはあるものの、ワーキングペーパーでは説明を単純化するために、統合して概要を説明している。
実証実験ではまず、金融市場で求められる機能とビットコインのブロックチェーンを比較し、課題を抽出(図参照)。これを踏まえて実証実験で採用する規格を決めた。次号では、その詳細をみていく。
