日本取引所(JPX)が行ったDLTの二つの実証実験では、前号で説明した規格を採用し、証券市場での発行・取引・清算・決済・株主管理といった一連のプロセスが実現できるのかどうか、技術評価を行った。(本多和幸)
「DLTを金融市場インフラに適用した場合、いくつかの課題があるものの、新たなビジネスの創出、業務オペレーションの効率化およびコストの削減などに寄与する可能性が高く、金融ビジネスの構造を大きく変革する可能性をもつ技術であることがわかった」。JPXのワーキングペーパー 「金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」では、DLT(ブロックチェーン)についてこう総評している。
ワーキングペーパーで示された実証実験の評価・考察を少し細かくみてみよう。金融市場業務とDLTとの親和性については、集中型の注文処理が有効な取引業務との親和性こそ低いものの、「ポストトレード分野においてDLTを活用することにより、将来的に既存の業務フローの大幅な効率化が達成される可能性があると考えられる」とした。

既存業務の大幅な効率化が期待できる一方で懸念も
一方で、金融市場へのDLT適用の障害になり得る懸念事項として、期日をトリガーとしたイベント処理や外部データの取得、乱数発生を要する複雑な計算処理を行うといった場合に、ノード間でデータの整合が取れずに認証処理ができなくなる可能性を指摘している。
また、スループット性能については、「残念ながら現状ではまだ適用範囲を限定せざるを得ない水準である」と断じ、さらなる技術改善への期待を示した。
また、クライアントサーバー型のシステム構成とDLTを使ったシステム構成のコスト比較も行っている。「ハード、ソフトの費用や保守費用は低下する可能性があるが、単純なITインフラの置き換えによるコスト削減効果は限定的であり、DLTの採用によるコストへの主要なインパクトは、ビジネスプロセスの改善によるオペレーションコストの削減によりもたらされると考えられる」と結論づけている。