本連載では、SIerやITベンダーがオープンイノベーションの手法を用いて、実際にどのようなプロジェクトに取り組んでいるのかをレポートしていく。(安藤章司)
TISはAI(人工知能)の分野で、スタートアップ企業や大学との協業に力を入れている。AIが発展途上の技術であることと、その技術を実際の業務に落とし込んでいくには、SIerとしてのノウハウ、投資対効果の測定など、純粋な「技術」以外にも多くのことを習得していく必要がある。早期の事業化にこぎ着けるためにも、スタートアップ企業や大学と協業することが有利と判断。オープンイノベーション手法を採り入れることにした。
具体的には、今年2月に設立されたAIベンチャーのエルブズにTISが出資するかたちで、オープンイノベーションのベースとなる枠組みをつくった。エルブズは「bot(ボット)」と呼ばれる対話エンジンを駆使して、地域の住民や事業者、自治体などのコミュニケーションを円滑に進めるAI開発を手がけている。地域住民との実証実験に着手する一方、大阪大学やはこだて未来大学との共同研究も相次いでスタート。大企業であるTIS、スタートアップ企業のエルブズ、そして研究機関のトライアングルを形づくってイノベーションに取り組んでいる。

油谷実紀
フェロー ゴールは早期の事業化だ。AIはそのままでは商品として機能しにくい特性があり、この点が、用途がはっきりしている従来型の業務システムと大きく違うところだ。TISの油谷実紀・フェロー戦略技術センター長兼AI技術推進室長は、「AIを企業や社会に役立つよう、即戦力として実装できるかがSIerとしての腕の見せどころ」と話す。
例えば、はこだて未来大学の松原仁教授の研究室とは、「対話破綻の事前検知の実用化」をテーマとしている。AIが人間と自然な会話をするためには、見当違いな回答をしたり、突拍子のない方向へ会話をもって行ってしまったりしては、話し相手である人間はうんざりしてしまう。そこで、松原研究室では、自然な会話をAIに学ばせる教材として選んだのが、全編にわたってほぼ会話で構成されている「マンガ」である。状況説明や独白が多い小説より、自然な会話が学びやすく、教材となるマンガの種類も豊富だ。
油谷フェローは、業務や実社会で役に立つには、目的にかなった模範解答とそのシナリオも用意し、なおかつ無理のない自然な会話も実現しなければならない。さらに、重要なのは、AIの学習が「あまり高価なものにならないこと」だ。学習コストがかさみすぎては投資対効果で疑問符がついてしまう。だからこそ、AIが自分で「マンガを読んで」学習を進められる「ディープラーニング」的なアプローチの可能性に着目した。
(つづく)