「働き方改革担当大臣」が新設され、国をあげての長時間労働是正が始まった。長時間労働が効率を下げるのはもちろんのこと、モチベーションの低下とともに仕事の質も下がってくる。従業員の健康のためだけでなく、仕事の適正配分や効率や質の向上のためにも早急に取り掛かる必要がある。一方、働く側の意識としては少し違った見方も必要なのではないかと考えている。最近首都圏から地方に転職した経営幹部の人たちにインタビューをさせていただく機会が多いのだが、彼らが地方に転職してどう働き、どう生活しているのかといった話には共通の軸があり、そこには企業が抱える課題解決の糸口があるのではないかと思う。その共通軸とは仕事と生活が見事に融合しているということである。これをワークライフインテグレーションという言葉で表現するのが、しっくりくる。
通勤時間が短くなり、生活が豊かになったというのはもちろんだが、仕事に対するモチベーションも高く、地域貢献の意識も高い。ワークライフバランスではないところが興味深い。ワークライフバランスは仕事と生活のバランスをしっかりととりましょう、という文字通りのことであるが、認識の仕方によっては「あまり働くのやめましょう」と理解する人もいる。しかし、それも違うのではないかと彼らを取材して感じた。
健全なのは、仕事と生活を分離して考えるのではなく、融合させて優先順位をきちんとコントロールできる状態なのであろう。そして特徴的なのは、彼らは同様に地域活動も生活の一部として融合させているということ。「地域活動は安心安全として家族に帰ってくるんですよ。そういう意味ではとても有意義な時間の投資ですね」そんな言葉が聞かれたのが印象的だった。私にとっては目指したい姿であり、とてもうらやましい状態である。
働き方に対する考え方は確実に変化してきている。シェアリングエコノミーが受け入れられ、共有型のコミュニティが広がってくると、仕事とのつき合い方も変わってくるであろう。働き方改革も浸透していくと思われるが、その時に仕事の時間の減少とともにやりがいやモチベーションも一緒に減少しないように、ワークライフインテグレーションという考え方も一つありなのではないだろうか。私自身、まだまだ試行錯誤が続きそうである。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。