「もう、会場はリオでいいんじゃないか」。そう思いたくなるほど、東京五輪の競技会場がひどいことになっている。東京の範囲は東京ディズニーリゾートがある浦安市までが世の認識のはずだが、ボート・カヌー会場に至っては、もはや関東ですらない遠隔地が候補に挙げられている。それでも、競技会場の整備に膨大なコストが必要だという。ボート・カヌーだけじゃない。バレーボールや水泳にも飛び火。当初話題となった国立競技場は、まさに氷山の一角だった。新国立競技場の建設コストを「聞いていない」と言った舛添要一・前都知事の交代劇は、吉と出るか凶と出るか。
クラウド時代ということで、五輪も場所を気にせず、最新の施設と実績があるリオデジャネイロにすれば、都民の税金は安泰となる。常識ではありえないが、イノベーションという言葉で片付けてみるのもクラウド時代的である。
“クラウドは場所を選ばない”といわれるが、それは利用者側の話。インテグレータの視点では、場所や地域を考慮することが重要となる。IoTの普及によって、ようやくクラウド活用が進み始めたという地域の声は、その一例だ。「グローバル時代を勝ち抜くために」程度の提案では、まったく相手にしてもらえない。
IaaS/PaaSを提供するクラウドベンダーにとっても、地域の戦略が勝敗を大きく左右することになる。いわゆる「リージョン」が、それにあたる。日本でクラウドが普及したのは、グローバル大手のクラウドベンダーが日本リージョンを開設するようになってから。かつぐなら、日本リージョンがあるクラウドサービスという見方もできる。
リージョンの必要性に関しては、「日本の企業がデータを国内に格納することを望むから」と、日本独自のニーズとする声もあるが、それは違う。どの国でも、国内リージョンを求めている。韓国では、グローバル大手による国内リージョンの設置が遅れたため、出遅れ感があるという。
また、地域では支店の有無も大きく影響する。クラウド時代でも対面によるコミュニケーションの重要性は変わらないのである。
東京五輪のコストは、多くが都民の負担となる。都民の負担だが、税金として一括りにされてしまうため、誰の負担かは明確にならない。雲の向こうの世界のようだ。
『週刊BCN』編集長 畔上文昭
略歴
畔上 文昭(あぜがみ ふみあき)

1967年9月生まれ。金融系システムエンジニアを約7年務めて、出版業界に。月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。著書に「電子自治体の○と×」(技報堂出版)。趣味はマラソン。自己ベストは、3時間12分31秒(2014年12月)。