グローバル化が進んで日本企業の経営形態にも大きな変化が生まれている。その一つは、これまでは多くが専業主義であった企業経営が、大きく多角化へと動いたことである。それも誰でも知っている大手企業が本格的に多角化を始めている。
大手企業がシンガポールの子会社に孫会社をつくらせて、その孫会社の投資でヤンゴンに高級マンションを建設して運営している。マンションが供給不足のヤンゴンでは家賃が東京よりも高く、月30万から40万円もするが、その会社の4階建てのマンションは満室である。
カンボジアでは、マルハンがマルハンジャパンという銀行を経営している。同国では、最初の外国銀行であり、ローカルの銀行が企業に新規の融資をしようとするとき、行員がまだ慣れておらず、おしゃべりで外に漏れる。そこで、新規融資分についてマルハンだと外に漏れないという信頼があり、けっこう活用されているようである。
航空券の予約サイト「空旅.com」を運営するエボラブルアジア(吉村英毅社長)が、ベトナムでITオフショア事業を行い、3年あまりで最大規模となっている。同社がITオフショア事業を始めた理由は、オンライン旅行事業のシステム開発をベトナムで行ったことがきっかけである。
ベトナムでのITオフショア事業は、エンジニアの質が高い、親日的で日本人と気質が合う、時差が2時間で仕事の段取りがしやすいなど利点が多いと判断し、新たな会社の柱に加えることにした。
従来のITオフショア事業ではなく、ユーザーごとの完全専属チームを用意するラボ型事業である。これは、ユーザーからプロジェクトマネジャーを派遣してもらい、専属の部屋を用意し、求人を行いエンジニアを確保し、コストをおさえ、ノウハウが蓄積できる仕組みだ。自社で行った成功体験をほかの会社にも展開する。確かに、このやり方だとユーザーにとってはベトナムに子会社をつくったと同じだから定着率は高くなる。
現在、ITエンジニアはホーチミン市に450人、ハノイに80人、ダナン30人、総勢600人ほどが勤務していて、稼働ラボ数は60社、大手ゲーム会社などの有名企業も利用している。何よりもこのラボ事業のユーザーの継続率が92%という高い数字にあるのが事業の確かさを物語る。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。