クラウドの普及とともに、インフラ機器の販売や構築の需要は減少の一途だ。開発や保守、運用も工数需要は減少に転じつつある。たとえ需要があっても、利益を出しにくくなっている。そういうなかで、フローからストックへとビジネスの転換を図りたいとさまざまな取り組みが進められているが、思うように結果が出せない。現場に聞けば、危機感をもっているというが、変革が進まない。新規のサービス・ビジネスがうまくいかない。その理由は明白で「当事者にモチベーションがない」からだ。
経営者が、ストック・ビジネスがどれほど大切かを言葉で語っても、業績評価が「売り上げと利益」のままでは、モチベーションは生まれない。ストック・ビジネスの多くは、短期的には売り上げと利益の減少を伴うが、それに合わせて業績評価基準を変えなければ、既存の目標達成を優先するだろう。戦略や事業内容がすぐれていても、業績評価が伴わなければ、現場は動かない。
理屈や精神論で納得させて人を動かすことはなかなか難しい。当初はうまくいっても、努力が報われないとなれば、やがてはやる気をなくしてしまう。しかし、カタチを整えれば、現場は動く。その結果として、危機感やモチベーションは醸成される。
ある大手のSI事業者はクラウドやデータ・センターの売り上げを伸ばすために、営業の評価基準を変え、営業のモチベーションを上げることに成功した。彼らは、業績の評価基準として経常利益を重視しているが、初期投資が大きく短期的な売り上げが小さいこれらのビジネスは、手間のわりには経常利益が得られない。そのためこれらを売ろうというモチベーションが生まれなかったが、原価を本社勘定とし、営業の評価は「売り上げ=経常利益」としたことで、現場のモチベーションは大きく変わり、事業目標も達成できたという。別の会社は「クラウド案件」について、初回の売上計上時に、3年分の見込み「売り上げと利益」を営業の業績として評価することにした。営業のモチベーションは大いに上がり、安定的なキャッシュフローを生みだしている。
まずはカタチから入ってみてはいかがだろう。カタチが現場に徹底すれば、結果として危機感が高まり、何をすべきかを現場は自然と共有できるようになる。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。