受託開発を続けていると、共通化できる機能があることに気づく。似た機能をゼロから開発するのはもったいないし、ユーザー企業にとってもムダな投資になりかねない。うまく組み合わせれば、パッケージ製品になるのではないか。そう考えたITCSの深見和久・代表取締役社長は、事業の柱を受託開発からパッケージ製品の開発へと、大きく舵を切った。創業から約5年が経過した2000年頃のことである。以降、成功と失敗を繰り返しながら、主力と呼べるパッケージ製品が育ち、同社の経営を支えている。(取材・文/畔上文昭)
創業5年で脱受託開発
深見和久
代表取締役社長
ITCSの創業者である深見社長は、システム開発会社に勤めていたが、会計への興味がきっかけで、公認会計士を目指していた。しかし、仕事が忙しいため、勉強の時間が取れない。「システム開発の仕事は大変だが、顧客に認められると、つい一生懸命になってしまう」と、深見社長は当時を振り返る。公認会計士を目指し、勤めていた会社を退職した。
ところが前職の顧客から「手伝ってほしい」と頼まれ、アルバイトとして仕事を受けた。それが徐々に膨らみ、会社にしてほしいとの依頼があったことから、ITCS(当時はアイ・ティー・シー・システム)の設立に至った。
こうした経緯から、ITCSの創業時の事業は元請けの受託開発であった。それが現在では、パッケージ製品が事業の柱に変わっている。「創業から5年が経過した頃から、オーダーメイドではなく、パッケージ製品を出していきたいと考えるようになった」と深見社長。その考えに至ったのは、受託開発での経験からだった。
「A社とB社でシステムを開発して、同じ要件としてまとめられるならパッケージ化したほうが安く提供できる。システム構築の費用が安くすめば、ユーザー企業は現場の生産性を上げるためにさらなる投資ができる」。パッケージ製品は、ヒットすれば大きな利益をもたらすが、開発費用を負担するというリスクがある。売るのは簡単ではない。パッケージ開発のメリットを知りつつも、多くのSIerが着手できないのは、そのためだ。
ITCSでも当初は売れなかったという。それでも主力となるパッケージ製品を開発できた。「運がよかった」と深見社長は謙遜する一方で、「小さな約束を守って、信頼を積み上げてきた」とも語る。製品のコンセプトもよかった。同社の主力製品は、経費精算や勤怠管理、稟議申請などの機能をもつ「ManageOZO3」。こうした機能をまとめて提供するパッケージ製品は、ほかにほとんどなかったこともあり、ユーザーの支持を得られやすかったという。現在では、8万ライセンスを超えるユーザーを抱えている。
ちなみに、売れずに撤退したパッケージ製品もある。その多くはアイデア先行で開発した製品だった。「アイデアがよくても、実績のない分野は囲碁で飛び石を打つようなもの。簡単にはつながらない。得意分野に注力したほうがいいと実感した。当社は管理会計が得意分野だったこともあり、以降は、そこを中心に製品を成長させてきた」と、深見社長は失敗と成功の要因を分析している。
サービス化は時代の流れ
パッケージ製品を提供するベンダーが、クラウドサービスへの取り組みに遅れるというのはよくあるケース。ユーザーがオンプレミスを望んでいるため、クラウド移行への判断が狂う。最初の売り上げが小さいというのも、理由の一つ。「ストックビジネスとして積み上げていけばいいことだが、クラウドはいつでも解約できるのがユーザーにとってのメリットの一つ。ダメなサービスなら、すぐに解約されてしまう」ことから、深見社長はユーザーの期待に応えるために、常に緊張感をもって取り組んでいると語る。同社は、クラウドサービスへの流れは確実と考え、いち早く取り組んできた。現在では、新規契約の約7割がクラウド版だという。
受託開発からパッケージ製品、クラウドサービスへとシフトしてきたITCSだが、世の中の動きとして「システム開発は今後も残る」と深見社長は考えている。とはいえ、伸びるとは限らない。「システム開発のみを手がけている企業は、このままではだめだと思っているはず。少しずつサービスの開発を始めるなど、ビジネスのあり方を変えていく必要があるのではないか。人材派遣がメインだったとしても、得意分野があるはず。ネタは必ずある」。
ITCSは現在、主力のManageOZO3を“働き方が変わる”として展開中。「働き方改革」を追い風に、さらなる飛躍を目指している。