テロ対策を錦の御旗にして、共謀罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)が7月11日に施行された。
昨年、伊勢志摩で開催されたG7サミットにおいて議長国として日本は、『デジタルエコノミーがグローバルに継続的成長を実現するための自由なデジタルデータの流通の必要性』の宣言で大きな役割を果たした。一方で、ロシアや中国をはじめとして、多くの先進国がテロ対策を理由に重要なデータやプライバシーに関係する個人情報の国内外への流出・送信を制限する法律を施行させている。テロ対策を理由に、国が企業・組織・個人の情報をアクセス可能にするような法整備が進められている。このような観点からすると、我が国は、企業・組織、そして個人の情報に関して、国からの秘匿性・保護を維持している(現時点において)世界でもユニークな存在である。実際、クラウド基盤を用いてオンラインアプリケーションサービスをグローバルに展開しているあるサービスプロバイダでは、米国と中国の顧客からデータの保存先・保管先を日本にしてほしいとの要望があったという。日本は、「戦争を行わない・関与しない国」であり、通信の秘匿性を堅持し、国境を越えたグローバルなデータの送受信が自由に行われるような法を整備している。これによって、デジタルエコノミーに関する危機管理(BCP)という観点での高いセキュリティ品質を実現・提供している国であると、国外から認識されているのではないだろうか。
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本のデジタルエコノミーを支える情報通信インフラの堅牢性が世界最高品質であることを広く世界に証明・認識させることになった。NTT、KDDI、ソフトバンクの3社に代表される通信会社、データセンター専業者、さらに、このインフラを用いてサービスを運用するプロバイダの日頃の準備と発災後の迅速で適切な対応によって、日本のデジタルエコノミーの活動の根幹は停止することなく、稼働を継続した。これは驚くべき事実であり、その結果、世界が、「日本品質」を認識するとともに賞賛したのである。われわれは、このような日本のすばらしい情報通信環境の維持と向上を目指していかなければならないのではないだろうか。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。