ロボティクス関連事業に積極的な神戸市のSIerであるムーブは、PC関連ソフトウェアの開発やISPサービスの提供、WebTV専用ICカードシステムの開発、携帯電話コンテンツの開発などを経て、ソニー製ロボット「AIBO(現・aibo)」の登場を機に関連アプリの開発に取り組んだ。これが奏功し、今ではソフトバンクロボティクス製の「Pepper」でアプリ開発パートナーに認定されている。今後は、先端技術の研究によってロボットと人間が共存する社会を築く一翼を担おうとしている。(取材・文/佐相彰彦)
Company Data
会社名 ムーブ
所在地 兵庫県神戸市
設立 1987年7月
資本金 6300万円
従業員数 3人
事業概要 PC関連ソフトウェアの開発やISPサービス、携帯電話コンテンツなどのビジネスを展開後、現在はロボティクス関連ビジネスを手がけている
URL:http://www.move.co.jp/
先を行き過ぎた開発
市成 修
代表取締役
ムーブの設立は1987年。パソコンの歴史でいえば、80年代はホビー用途を中心に8ビットパソコンが全盛期になったほか、MS-DOSの登場によって16ビットパソコンの出荷台数が増加した時代だ。当時、自動車を販売していた市成修氏はパソコンがビジネスになると判断。リコー製の表計算ソフト「マイツール」も創業を後押ししたという。「ソフトとハードを一体型にしたリース販売など、パソコンでできることをビジネスにする会社として立ち上げた」と市成代表取締役は振り返る。
その後、Windowsのオフィシャルディーラーに加盟してビジネスを手がけながら、一般第二種電気事業者の認可を受けてISPサービス事業に着手。「ムーブネットワークサービス」という名称で提供を開始した。96年のことだ。外国人には好評だったものの、まだインターネットサービスが主流というわけではなかったことから、予想に反してサービス利用者数が伸び悩んだという。その後、マイクロソフトとウェブ・ティービー・ネットワークスによって開発された家庭用テレビ受像機に接続して使用するインターネット専用セットトップボックス「WebTV」向けに、URL誘導が可能なカードシステムを開発。ところが、日本でのWebTVサービスが終了となり、カードシステムの提供から撤退せざるを得なくなった。
2000年代、世界に先駆けて日本で3Gの商用サービスが始まって携帯電話が爆発的に普及。このブームに乗るために携帯電話機能拡張ユニットを開発し、特許を取得した。加えて、携帯電話関連ビジネスでは有料コンテンツの提供、韓国企業とモバイル観光コンテンツに関する契約も締結したものの、スマートフォンが主流となってビジネスが大きく成長することはなかった。
市成代表取締役は、「少し先を行き過ぎた開発が決してビジネスに結びつくとはいえないということがわかった」とかみ締める。一方で、「先見の明には絶対の自信がある」。そこで、ロボティクス関連事業への着手に踏み切ることになった。
Pepperアトリエサテライトに認定
ムーブがロボティクス事業に参入したのは、ソニーのAIBOがきっかけ。「オリジナルアプリの開発に取り組んだ」という。その後、Pepperが登場して「ロボットが活用できる市場を創出し、先端技術を研究することで、ロボットと人間が共存する社会を築きたい」と考えた。比較的早い時期にアプリケーションの開発に力を注ぎ、15年12月には「Pepper パートナープログラム」で一定の知識や技術水準を満たしたと評価されてロボアプリパートナー(Basic)に認定された。
16年には、有馬玩具博物館に3体のPepperを納入。館内ガイドとして日本語と英語で各フロアの解説を担当している。また、ウエスティンホテル淡路に納めたPepperは、滞在客に対してロビーで接客。ホテル内の施設を案内しているほか、周辺の観光スポットを天候に合わせてアドバイスしている。さらに、神戸ワインサロンでは新年会の祝賀挨拶・乾杯を行ったことに加えて、装着したタブレット端末で「本日のワイン」を楽しくを説明した。このような取り組みによって、ムーブのオフィスはPepperの開発体験スペース「アトリエ」の神戸サテライト拠点として認定された。
「他社が開発したアプリは機能が限られているが、当社のアプリは汎用性が高い」と自負する。実際、認知症にならないようサポートしたり、脈拍や血圧を計測したりする、さまざまなPepperを市場に出している。
市成代表取締役は、「ロボットは今後、IoTの中心になることは間違いない」と断言する。そのため、Pepperのアプリ開発力を生かして、自社でロボットを開発することも模索している。「現在、Pepperとはコンセプトが異なるハードを開発中。完成したら、アプリの開発にも着手する」としている。
ロボティクス事業は拡大しており、売り上げが伸びている状況という。市成代表取締役の早い着目点に、ようやく時代が追いついてきたようだ。