組み込みソフト開発を強みとするSIerにとって、アプリケーションやサービスの領域に、どこまで踏み込むかは悩ましい課題である。汎用的なアプリになればなるほど、組み込みソフト開発ベンダーとしての強みが生かしにくくなるからだ。そこで、メタテクノでは、デバイスに直結したアプリ領域を重視。例えば、一つのCPUをパーティションで区切って、それぞれにリアルタイムOSと汎用OSを実装し、制御とアプリを統合させるなどして一体化を推進。組み込みソフトベンダーならではの強みを生かしている。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 メタテクノ
所在地 川崎市中原区
設立 1984年
資本金 4000万円
従業員数 連結約300人
事業概要 複写機や車載、医療機器など幅広いデバイス向けのソフト開発を手がけている。2016年、スリランカに技術センターを開設。同国でIT人材を育成する私立大学の立ち上げにも尽力している。組込みシステム技術協会(JASA)の会員企業
URL:http://www.meta.co.jp/
デバイス連動型の
アプリ領域を重視
大和靖博
常務取締役
車載や医療機器、複合機などあらゆるデバイスがネットワークにつながるIoT化の流れのなかで、組み込みソフトと連動して動くアプリケーション開発のニーズが拡大。メタテクノも技術者全体の4割をアプリ領域に割り当てなければならないほど、顧客からの引き合いは大きい。
しかし、リアルタイム制御が基本の組み込み領域と、さほどリアルタイム性を求められないアプリ領域とでは、「技術体系が大きく異なる」(大和靖博常務取締役)。このため、習得すべきスキルも異なり、技術者の得意分野が分散してしまう。端的に例えれば、リアルタイムOSの「ITRON(アイトロン)」と、汎用OSの「Linux」の技術体系の違いほどの差がある。アプリやサービスの仕事も大切だが、組み込みソフトを得意とする自社の特性も大切にしたい。こうしたジレンマに悩まされてきた。
リアルタイム制御はニッチな分野ではあるが、この分野に精通する技術者を多く抱えることはメタテクノの大きな強み。他社にとっての参入障壁にもなっている。一方、Linuxなどの汎用OS上でアプリを開発する技術者は非常に多く、うまく特徴を出していかなければ、大手ベンダーとの競争にさらされかねない。
そこで、メタテクノがとった戦略は、「デバイスの組み込みソフトと連動して動くアプリやサービスに特化していく」というもの。デバイス連動型であれば、強みとするリアルタイム制御の組み込みソフトと密接にリンクする領域であり、ライバル他社との差異化にもなる。発注者である電子機器メーカーからしてみれば、デバイスの制御からアプリ領域まで、ワンストップでメタテクノにアウトソーシングできるメリットを享受できる。制御とアプリを統合開発することで、信頼性の高いシステムに仕上げやすくなる。
リアルタイム制御と
アプリを統合へ
制御とアプリの統合環境の実現にあたっては、一つのCPUをパーティションで区切って、片方にリアルタイムOSを入れ、もう片方にLinuxなどの汎用OSを入れる手法を有力視している。
例えば、医療分野で血管に造影剤を注入する医療機器。造影剤を注入するモーターの制御はリアルタイム制御が強くもとめられる。だが、この医療機器のユーザーインターフェース(UI)の部分は、そこまでのリアルタイム性は求められない。そこで一つのCPUをパーティションで区切って、リアルタイムOSとLinuxを入れ、モーター制御とUIアプリをそれぞれのOSで動かすアーキテクチャの提案などを行っている。「リアルタイム制御とデバイス連動アプリの両方に精通する当社ならではの強みを生かす」戦略だ。
大和常務は、1980年代から産業用ロボットの組み込みソフト開発に携わっていた。大型の産業ロボットは力も強く、制御を間違えれば大事故につながりかねない。「プログラム一行一行が真剣勝負。人の命に関わるプレッシャーが、やりがいにもなっている」と話す。今から20年ほど前、そんな大和常務のもとに、スリランカからやってきた留学生がアルバイトにきた。組み込みソフトへの熱い思いに触発されてか、彼は帰国後、同国最大の都市であるコロンボでのメタテクノの拠点開設に参画。今では、技術センター兼人材育成の拠点として機能している。
スリランカとの接点は、教育機関の開設にもつながった。17年には、IT系の人材育成機関として私立の「ランカ・ニッポン・ビズテック大学」を本格的に立ち上げ、1学年100人程度の学生数でスタートしている。組み込みソフトや日本語もカリキュラムに取り込み、スリランカでの組み込み人材の育成にも力を入れている。