この春から、東京工芸大学と松本大学において、非常勤講師としてそれぞれ講座を担当している。東京工芸大学ではアーティストを目指す学生に、松本大学では教員を目指す学生に、それぞれ著作権と情報モラルについて解説を行い、将来のキャリアに必要な知識と視点を身につけてもらおうと努力しているところだ。次代を担う彼らのまなざしは真剣で、彼らの意見は私にとっても学ぶところが多い。
ところで、著作権について学生に教えるとき、私はいきなり著作権の話をするのではなく、そもそも「情報」とは何か、「情報の価値」とは何かについて理解してもらうことから始めている。
情報の価値こそ重要だといわれるようになって久しい。私が長年携わってきた著作権保護活動において、保護対象である著作物は人が創り出した創作物であって、世の中にあるコンテンツと呼ばれるものの大部分は著作物に該当する。その著作物、すなわち文字や音楽やウェブサイトといったコンテンツには、情報としての価値がある。著作物は情報の一部なのだ。
一方、業務でクライアントに提案をされている皆さんにとって価値を生む情報は、ノウハウあるいは経験知であって、著作権のような法的な保護を受けるものではないかもしれない。それでも、ノウハウや経験知とともに、クライアントが困っていることや次に志向していることは、とても重要な情報であって、価値を生むはずだ。このことは、もっと強く意識されて然るべきだろう。
企業活動に対して釈迦に説法だが、例えば地方であれば、そのクライアントだけの課題にとどまらず、地域全体の課題や町役場の計画といったことも耳に入るだろう。そのとき、雑談のなかにある情報にも価値が潜むという感覚をもてるかどうかは、とても重要だと思う。
著作権というと、法律の話になりがちだが、その実態は、情報の価値をどう守り、どう生かすかということだ。極論すれば、法律を援用しながら情報の価値をどうマネタイズするかといってもいい。その点は、企業のノウハウや経験知にも共通するのではないだろうか。長年、著作権という情報の価値について考えてきた私は、情報の価値全般について、もっと考えて欲しいのである。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。